第113話

 ――迎撃準備から三日後。

 ついに俺達はタマモ率いるモンスター軍団と対峙する事となる。

 俺達は現在城壁の上に陣取り、タマモ達を見下ろす形になっている。


「よぉ、久しぶりだなアホタマモ」

「……ムクロか。相変わらず骨だな、お前」


 タマモはこちらを見上げると、なんともトンチンカンな答えを返してくる。

 金色の髪に麻呂眉、日本の狩衣と呼ばれる服を着て、所謂陰陽師チックな恰好をしており、後ろに生えている九本の尻尾が印象的だ。

 俺が最後に会った時と何一つ変わらないタマモが、そこに居た。

 そして、その傍には人間らしき奴らが居り、その後ろに大量のモンスター軍団。

 いったい、どこからあれだけの数のモンスターを調達したのだろうか。

 ちなみにリリスの姿は見えない。

 奴が居ないのは目に優しいが、居ないというのがこれほど不安になるというのもまた厄介だ。


「タマモ、今ならまだ間に合う。退く気はないか?」

「はん、俺は強欲の王だぞ? そう言われてはいそうですかって退くわけないだろうが」


 ですよねー。

 俺もとりあえず言ってはみたが、正直タマモがそんな事で退くとは微塵も思っていない。

 ……仕方あるまい。

 非常に心苦しいが、彼にはきついお仕置きをする必要がありそうだ。


「……」


 俺がスッと右手を上げて合図をすると、城壁の上に数台の大砲に似たものが設置される。

 タマモ達は、それを見て訝し気な表情をする。

 ……まぁ、魔法が当たり前の世界でこんなものは見た事が無いよな。

 正直、これを見た時は俺も驚いたものだ。


「焼き尽くせ!」


 ビッとモンスター軍団に向けて手を向けると、大砲のような物は砲口に光を溜め始め、轟音と共に極太のレーザーを発射する。


「な、にいいいいいい!?」


 目の前に繰り広げられる光景を見て、タマモが面白いくらいに顔を歪める。

 タマモ達の後ろに居たモンスター達は、こちらの攻撃で半分近くを一瞬で消し炭にした。


「ぶはははは、良いザマだなぁタマモ!」

「てめぇ、卑怯だぞ! なんだそのくそチートな物は!」

「魔導兵器だよ、魔導兵器! 過去の遺産って奴だ」


 俺はタマモのリアクションを見て大いに満足しながらそう答えてやる。

 この世界には、剣や銃などの個人で使用する武器はあるが、大砲のような兵器はない。

 それ故に、アルケディアでこれを見つけた時はラッキーだと思ったね。

 使用者の魔力を使い、強力なレーザーを放つというものだが、運がいい事にこちらの陣営には魔力だけは腐るほど持ってる連中ばかりだ。


「うわぁ……なんだこれ、予想以上の威力だな……」

「これだけの技術があったっていう魔導国家が妬ましいですわ……」


 目の前の惨状を見て、師匠やレヴィアータがドン引きしながら呟いている。

 まあ、俺も正直ここまでの威力だと思っていなかったから少しだけビビっているのは内緒だ。


「魔導兵器……だと? くそ、訳の分からんもん出してきやがって。お前、正々堂々と戦うとかそんな気持ちは無いのか!」

「はん、モンスター大量に連れて来たり、邪神の力に頼ってる奴に言われたくないね。それにな、昔からの格言であるんだよ……『勝てばよかろうなのだ』とな!」

「きっさまぁあああああ!」


 俺が小ばかにしたようにそう言い放つと、タマモが歯ぎしりしながら悔しそうに叫ぶ。

 ふはははは、愉快愉快。俺達に迷惑を掛けた罰だ、くそ狐。


「……これでは、どちらが悪役かわかりませんね」

「お兄ちゃん、すっごいイキイキしてる」


 俺の左右でレムレスとアグナが呆れた様子でこちらを見ているが知った事ではない。

 こちとら、あそこでアホ面さらしてるくそ狐のせいで鬱憤がたまっているのだ。これくらいやっても罰は当たるまい。


「さて、このままもう一発……」

「させぬでござるよ」


 俺が再び合図をしようとした瞬間、男の声が聞こえたかと思うと俺の首が宙を舞っていた。


「ムクロ君!」

「くそ、こいついつの間に!」


 ディオンや師匠が叫ぶ中、俺はすぐさま復活すると俺の首を飛ばした人物を見る。

 

「忍者だ……」


 そう、忍者。

 黒い覆面に黒装束。両手に短刀を握っており、紛う事無き忍者だった。


「せ、拙者はニンジャではござらんよ!」


 俺の呟きが聞こえたのか、忍者はあからさまに狼狽える。

 いや、どう見ても忍者だろ。


「拙者は占星十二宮の十二幹部の一人、『蟹座キャンサー』暗殺部隊フウマ! 決して忍者では無い! ないったらないでござる!」

「お、おう……」


 フウマと名乗る男の剣幕に押され、俺は思わずそう答える。

 ……忍者なんだよなぁ。


「噂には聞いていたでござるが、本当に不死身のようでござるな……なら、死ぬまで殺し続けるまで!」


 大方、俺らの事はタマモから聞いてたんだろうな。

 だが、生憎だが俺もこれ以上死ぬわけにはいかんのだ。


「させるかぁ!」

「ぬぅ!?」


 フウマが俺に斬りかかろうとした時、横から剣を構えたディオンが割り込んでくる。


「貴様、拙者の邪魔をするか!」

「当たり前だ! ムクロ君をむざむざ殺させたりはしない! それに、不意打ちなんかをする卑怯者をボクは許せないんでね」


 あれれぇ? なんだか心が痛いぞぉ?


「ムクロ君、ここはボクに任せてタマモを頼む!」

「わかった!」


 俺は、逡巡すらせずに速攻でそう答えるとダッシュでその場から離れる。


「え、あ、ちょ……」


 後ろではディオンが狼狽えていたが知った事ではない。任せろと言われたので任せただけだ。

 生憎だが、今はあんな訳わからん忍者に時間を割いてる暇はない。

 一刻も早くタマモをぶちのめさなければいかんのだ。


「マスター、良かったのですか?」

「まぁ、ディオンなら大丈夫だろ」


 なんだかんだ、彼女は人間ではあるが一等級冒険者になっただけの実力はある。

 あんな変な忍者ごときにやられはしないだろう。


「それよりもほら、団体さんのお出ましだ」


 忍者野郎に気を取られていたせいで、タマモ達の侵入を許してしまった。

 目の前からは生き残ったモンスター達が攻め込んできている。

 タマモ達と恐らくは残りの幹部……は、散り散りになっているはずだ。


「グルアアアアアア!」


 目の前のモンスターは、俺達を見ると威嚇するように吠える。


「悪いが、遊んでる暇はないんで速攻で片をつけさせてもらうぞ」


 俺はそう呟くと、魔法を発動する。


暴虐の八つ首蛇ヤマタノオロチ


 瞬間、俺の影から真っ黒で巨大な八つの蛇が現れ目の前のモンスター達に食らいつくす。


「ふはははは! 見ろ、モンスターがゴミのようだ!」

「マスター、それは完全に悪役サイドです」


 モンスターを蹴散らす俺を見て、レムレスは冷静にツッコミを入れるが、俺はそれを華麗にスルーする。

 さぁ、楽しい楽しい大虐殺パーティの始まりだ!

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