第110話

 現在、俺達の目の前には王都中の人達が集まっている。

 俺と師匠は城の入口に立ち、目の前に集まった人達を見渡す。


「えー、この度はお集まりいただきありがとうございます」


 俺は、マイクの魔導具を使い集まった人達に声をかける。

 俺が声を掛けるとあちこちから黄色い声が聞こえてきた。

 ……少しだけ気分がいいな。


「今回、モンスター達に襲撃されこのような事になってしまい、皆さま苦労された事だと思います。勇敢で、優秀な冒険者達のお蔭で一度は撃退できましたが、ギルドマスターの話では奴らはまた攻め込んでくるとの話です」


 俺がそう話すと、住民達はざわめきだす。

 街をこんな風にした奴らがまた攻めてくると聞けば当然の反応ではあるな。


「しかし! 安心してください! 俺は一等級冒険者です。再び奴らが攻め込んできても見事撃退して見ましょう! しかも、俺の他にも同じ一等級冒険者であるカーミラ、それにディオンも居ます!」

「ディオン様ー!」

「カーミラちゃん、こっち向いてー!」


 住民達からそんな声が聞こえてくると、師匠とディオンは愛想笑いを浮かべながら軽く手を振る。

 ……よく見ると、師匠の顔がひきつっている。まあ、こんなのキャラじゃないので無理ないか。

 これも、住民の心証を良くするための作戦なので、師匠には愛想よくしてもらうよう頼んでおいたのだ。


「そして、おそらくこの王都が決戦の場になると思います。その際、貴方達を巻き込むわけにはいきませんので、とある国へ避難してもらいます。そこの王に事情を話したら、貴方達を引き受けてくれるとのことでした」


 まぁ、王は俺なんですけどね☆

 

「これから、他の冒険者達と協力して貴方達をその国まで護衛いたしますので、避難したいという方は、今から三時間後に王都入口に集合してください。もちろん、他にアテがあるならばそちらへ行って構いません。では……解散!」


 俺はそう締めくくると、師匠達と一緒に城の中へと戻るのだった。


「……ぶへぇ。ああ、緊張した……」


 俺は人化を解くと地べたに座り込む。

 まったく、人前で演説とか慣れない事をするもんじゃないな。


「お疲れ様です。マスター」


 俺がへたり込んでいると、レムレスとアグナがやってくる。


「レムレス、そっちの方はどうだい?」

「はい、問題ありません。ウロボロス様とアウラさんには受け入れの準備を整えてもらっています」

「奴隷の人達も、いっぱい人が来るって聞いたらすごい張り切ってたよ!」


 ふむふむ、アルケディアの方も大丈夫そうだな。

 レムレスとアグナには、一度アルケディアの方に戻ってもらってウロボロス達に事情を説明してもらっていたのだ。

 いきなり連れて行っても混乱を招くだけだしな。


「それにしてもムクロよ。よく、あれだけポンポンと言葉が思いつくな」

「まぁ、人当たりの良い言葉ならいくらでも思いつきますよ。とりあえず向こう側を持ち上げておけば、人間ってのは勝手に気が良くなるもんなんです」


 特に、冒険者諸君にはアルケディアまでの住民の護衛を頑張って貰わないといけないしな。

 モチベはあげといてほしい。


「まったく……コミュ力があって妬ましいですわね……爆縮しないかしら……」


 隅の方にいたレヴィアータがなにやらぶつくさとつぶやいている。


「まぁ、そう言うなって。レヴィアータの事も頼りにしてるんだからさ。タマモ達と戦う時はよろしく頼むぞ?」


 戦力は多いに越したことはない。

 レヴィアータも七罪の一人だけあって、戦力は一等級冒険者以上である。

 本当ならウロボロスも戦力に加えたい所なのだが、彼女にはアルケディアを護衛してもらいたい。

 無いとは思うが、タマモがアルケディアの存在に気付いている可能性も否定できないからな。

 一人でも七罪が居れば、そこは難攻不落となる。

 

「ふ、ふん! 仕方ないですわね。妬ましいですが、力を貸してあげますわ」


 俺の言葉に、レヴィアータはそっぽを向きながらそう言う。


「な、なぁ……レヴィアータの性格がいまいちよくわからないのだが……いったい、どういう人なんだい?」


 レヴィアータの態度を見て、ディオンが耳打ちしてくる。

 どういう人っつってもなぁ……見たままとしか言いようがない。


「まぁ、強いて言うなら……他人のいい所に気づくいい奴だよ」


 妬む、という事は裏返せば他人のいい所をよく見ているという事だ。

 そして、彼女の言動から誤解されがちだが……実はレヴィアータはお節介焼きで、ウロボロスの次に優しい人物だったりする。

 ナンタイモリで出会った時も、彼女は憎まれ口をたたいていたが、王都の事を報せに来てくれたんじゃないかと思っている。


「ふん!」

「あべひゃ!?」


 俺がレヴィアータを内心で評価していると、突然俺の頭部が爆発する。

 ……レヴィアータの仕業だ。


「いきなり何すんだレヴィアータ!」


 俺は復活しながらレヴィアータに文句を言う。

 まったく、勘弁してほしいものだ。


「何するんだではありませんわ。なにやら、私をプラス方向に評価してて、そんな心優しいムクロが妬ましかったから爆発させたまでですわ」


 レヴィアータはほんのりと頬を赤くさせながらそう言い放つ。

 ……ほらな? こいつは妬ましいと言いつつもきっちり相手を褒めるから憎めないんだよ。


「……また爆発させましょうか?」

「すまん、遠慮しておく」


 ジロリとレヴィアータに睨まれたので、俺は慌てて辞退する。 

 これ以上爆破されたらマジでたまらんからな……。


「……」


 俺とレヴィアータがそんなやりとりをしていると何やらレムレスがこちらをジーッと見つめてくる。


「どうしたレムレス。そんな熱い視線を向けてきて」

「……いえ、なんでもありません」


 レムレスはそう言うと、向こうへと行ってしまう。

 ……なんだんだ、いったい?


「すまない、ちょっといいかな?」


 レムレスの不可解な行動に首を捻っているとガラドアがやってくる。


「どうした?」

「住民の護衛に協力してくれる冒険者が集まったので、指示をお願いしたいと思ってね」

「数はどれくらいだ?」

「他の街へ避難してしまったり、亡くなってしまったりしてあまり数は居ないが……ざっと百人といった所だろうか」


 百人か……避難する人達がどれくらい集まるかは分からないが、少し心許ない気もする。

 まぁ、集まってくれただけでも良しとしよう。

 配置に関しては、少し距離間を空けて配置すればいいだろうし何とかなるさ。多分。


「わかった。それじゃ、案内してくれ。ほら、師匠達も行きますよ」

「あー、面倒だな……ワシ、こんな事よりも体を動かしていたいんじゃが……」

「タマモのすかぽんたんが来たら存分に暴れさせてあげますから。ほらほら」


 ぶつくさと文句を言う師匠の背中を押しながら、俺達は冒険者達が集まっているという場所まで向かうのだった。



 冒険者達との打ち合わせも終えて三時間後。

 王都の入口には先ほど集まっていた住民の五割ほどが来ていた。


「避難する人達はこれで全部か?」

「ああ、後は各々アテがあるからそちらに避難するという事だ」


 ガラドアに尋ねると、彼は頷きながら答える。

 ふむ……それにしても改めて見ると、やはり数が多い。

 どのくらいの人数が居るかは分からないが、アルケディアは王都よりも遙かにデカいし、まぁ何とかなるだろう。


「それじゃ、冒険者の皆さん。打ち合わせ通りお願いします。五人一列で並ばせて、列からはみ出ない用警戒してください。モンスターや野盗の類が出たら、お渡しした魔導具ですぐに報告。近くに居る冒険者は協力に当たってください。俺とレムレス、師匠……カーミラが遊撃部隊として常に巡回してますので」


 俺がそう説明すると、冒険者達は頷きそれぞれの持ち場へと動き出す。

 まったく、一生分働いてるんじゃないか、俺?


「兄貴ー!」


 俺が嘆息していると、聞き覚えのある声が聞こえる。

 そちらを見れば、物凄いモブ顔の三人組がやってきていた。


「誰かと思えばトンチンカンじゃないか」

「ポンでさぁ!」

「チーっす!」

「カンです!」


 俺が三人組の名前を呼ぶと、奴らは自分の名前を訂正してくる。

 だから、最後は合ってんじゃねーか。

 って、このやり取りも懐かしいな。

 こいつらとは、打ち合わせの時にも顔を合わせていたが、その時は話している余裕が無かったから、まともに話すのは今が初めてだな。


「お前ら、元気だったか?」

「もちろんでさぁ! それにしても、兄貴って本当にすごいお方だったんですね!」

「何だ急に?」

「だって、ディオンさんだけでなくあの姫騎士カーミラさんともお知り合いなんですよね?」

「どっちも一等級冒険者。そのどちらともお知り合いな兄貴はやっぱりすごいって事っす!」


 ポンの言葉に尋ね返すと、チーとカンがそんな事を言ってくる。

 ああ、確かに傍から見れば凄いっちゃ凄いか。

 俺としては、そんな自覚は無かったけれども。


「あー、まぁ……なんだ。お前らは、そんな俺の舎弟なんだ。お前らも充分すごいんだから、それに見合うよう今回の護衛、頑張れよ?」

「もちろんでさぁ!」

「もちろんっす!」

「あったりまえですよ!」


 俺の言葉に麻雀トリオは元気よく答える。

 うむうむ、何とも扱いやすい奴らで助かる。

 その後、麻雀トリオと二言三言、言葉を交わし時間が来たので、俺達はアルケディアまでの大移動を開始するのだった。

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