第101話
「やだ! 小生やだ! おうち帰る!」
「ええい、この馬鹿弟子がぁ! ワガママ言うでないわ!」
俺が全力で帰ろうとしていると、師匠がその馬鹿力で無慈悲に阻止してくる。
「リリスに会いに行くなら一人で行ってくださいよ! 俺は絶対嫌ですからね!」
「馬鹿もん! ワシだって、可能なら会いたくないわ! ここまで来たら一蓮托生。死なばもろとも、全員道連れじゃ!」
「あの、そんなに凄い方なんですか? リリス様という方は」
俺と師匠が言い争いをしていると、レムレスが間に入ってくる。
「凄いって言うか……凄いなぁ」
「うむ……とにかく、凄いな……」
「それでは全然分からないのですが、もっと具体的に教えていただけませんか?」
レムレスはそう言うが……実際の所、リリスの事を説明しようとしたら『とにかく凄い』としか言いようがない。
「奴に関しては、実際に会えばワシらが言ってる理由もすぐに分かるさ。ディオン達もそうだろう?」
「確かに……とにかく、凄いとしか言えなかったね……」
「ああ、出来れば二度と会いたくねぇなぁ」
「ですね……」
「……」
ディオン達は、リリスの事を思い出しのかゲンナリした顔でそう言う。
イニャスに至っては、無言でただコクコクと頷くだけだった。
「それで、結局呪いの方はどうなんだい? 解けるかも、と言っていたが」
「ああ、それ無理」
ディオンの問いに対し、師匠は逡巡することなく即答する。
「んな!? さっき、解けるかもと言ったじゃないか!」
「あくまで“かも”と、言ったんだ。もし、呪いをかけたのがリリスでなかったなら解けたのだが……」
師匠がそう言うと、ディオンは確認するようにこちらをチラリと見てくる。
「まぁ……申し訳ないけど、師匠の言う通りだね。普通の呪いなら一度死ねば解けるんだけど、リリスのはちょっと特殊でね。一応、それも呪いの類だから闇属性ではあるんだけど、魔法じゃないから光属性の魔法でも無い限り解呪は難しいね」
基本的に、呪いの類は掛けた本人が解くか光属性の魔法で、呪いを解除する魔法があるのでそれを掛けるかのどっちかになる。
一応、ディオンが光属性の魔法を使えるはずなのだが男のままであるということは、そういう魔法は持ってないという事になる。
「一番手っ取り早いのは、リリスに解かせる事なんだけど……」
「うへぇ、マジかよ……またあいつに会わなきゃいけないのか」
俺の言葉を聞いて、ファブリスが心底嫌そうな顔をする。
うん、わかるぞ。リリスに会ったら普通はそうなるわな。
「どっちにしろ、この街の異変を解決しなければならないし、会うというのは確定事項さ」
「そうですよ。私達も、いつまでもこんな姿で居るわけにもいかないですし、諦めてください。ファブリス」
ディオンとジルはそう言うが、ファブリスは気乗りしないままだった。
「ちなみに、イニャスはどうだ? リリスと会った感想」
先程から、隅で体育座りしてこちらに積極的に関わってこないイニャスに俺は尋ねる。
「何て言ったらいいのか分からないですけど……凄かったです」
「全員が凄い凄い言ってると、逆にどんな方なのか気になりますね」
「うんうん、どんな人か見てみたい!」
レムレスとアグナは、リリスを見た事が無いので俺達の様子を見て興味津々の様子だ。
さて、その態度が奴と会う事でどこまで保つか楽しみだ。
「じゃあ、俺はここで留守番してるから皆頑張ってきてよ」
「おぬしも行くんだっつーの」
俺の、さり気なく留守番作戦はあっさりと打ち破られるのだった。
◆
「それにしても、ディオンはあやつによく似ておるな。特に目元なんかはそっくりじゃ」
「あやつ?」
長旅だったこともあり、リリスの元へ行く前に少し休憩していると師匠がディオンに話しかける。
「カルディナの事じゃよ。あやつは今でも元気にやっておるか?」
「はい、母さんは元気すぎるくらい元気ですけど……母さんとは知り合いなんですか?」
「ああ、そういえば有耶無耶になって結局聞けてませんでしたけど、そこの所どうなんですか?」
聞こうとしたところで、ちょっとラブコメみたいな展開がきてバタバタしてたのですっかり聞きそびれてしまっていた。
「知り合いというか……アレじゃな。カルディナはワシの弟子じゃよ」
「……まじっすか?」
「うむ、マジじゃ」
俺が信じられないといった感じで尋ねると、師匠はこっくりと頷く。
「おぬしが隠居した後、ワシは放浪の旅をしてたのじゃが……そこでカルディナと出会ってな。奴から光る物を感じたんで鍛えてやったってわけじゃ。おぬしにとっては妹弟子という所じゃな」
なんていうか……世間って意外と狭いのな。
「実際、タマモを退けるまでに強くなって英雄なんぞになったのだから、ワシの慧眼っぷりも中々のもんじゃろう?」
「……な、なるほど。
師匠の話を聞いたディオンは、冷や汗を一筋流しながらそう言う。
「どうせこの件が片付いたら、一度王都に戻るしな。久しぶりにカルディナの顔でも見ていくか」
「きっと、母さんも喜ぶと思いますから、是非寄って行ってください」
その後も、しばらくの間、ディオンと師匠はカルディナの思い出について語り合う。
「……よし、そろそろ向かうとするか」
話がひと段落した頃、師匠がそう切り出す。
「行きたくねぇなぁ……」
「ええい、いつまでウダウダ言っておるんじゃ。女々しい奴め。さっさと観念せい」
「そうですよ、マスター。どっちにしろ、マスター達の身内の方が迷惑を掛けているのですから身内が何とかするべきですよ」
そうなんだけどぉ……そうなんだけどさぁ?
ぶっちゃけ、師匠一人居れば事足りると思うんだ、俺は。
「仕方ない……こうなったら、さっさと行って終わらせよう」
いくらリリスに会いたくないとはいえ、この街の現状を知って尚放っておくというのは気が引けるからな。
「よし、そんじゃ行きますか!」
俺は、半ば自分に言い聞かせるようにそう叫び、全員でリリスの居る城へと向かうのだった。
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