page10 親友 —3

 さっきから、何だかすっきりしないことばかりだ。そう思ったわたしの不満が顔に出てしまったのか、マスミ先輩がちょっと笑ってごめんね、と言った。

「結構、茉緒先輩に似てないんだなーって思ってさ」

「茉緒先輩……ですか」

「うん、似てるのかと勝手に思ってた」

「それは」

 明季が茉緒先輩のことを喋るとは思えないから、

「部長からの情報ですか」

 マスミ先輩がちらりと部長を見る。

 部長はさっきから何も言わず、こちらから顔を逸らしたまま斜め後ろを歩いていた。マスミ先輩は、ここでは部長に突っかかることをせず、ちょっと肩を竦めて笑った。

 肝心なところで。

 自分の後輩が、自分の彼女に似ていると親友に話す心境って、一体どういうものなんだろうか。

 考え込んでしまったわたしを、マスミ先輩が呼び起した。

「琴花さん」

「あ、はい」

 何でしょう。

「諒輔、怖い?」

「……!?」

 わたしは何て答えたらいいか咄嗟に分からずに、口をぱくぱくさせてしまった。

「は……マスミ!」

 部長が慌ててマスミ先輩の口を塞ぎに来るが、マスミ先輩はその手を余裕で取り抑える。

 返事に窮するわたしの様子を見て、マスミ先輩は笑っていた。

「答えにくいこと訊いちゃったねえ、まあ、分かるよ。初対面怖いよねこいつ、顔暗いし、喋んないし」

 わたしは何も言えずに、部長の方をちょっと窺う。彼はそっぽを向いたまま、不機嫌そうな顔をしていた。

「でも会話能力がないだけなんだよね、実は。仲良くしてやって……って、もう遅いかもしれないけどさ。仲良くしたいとは思ってるんだよ、ね、諒輔」

「……黙れ」

 無表情を崩さない部長の頬が心なしか紅く染まっているのに気付いたのは、路地から明るい駅前大通りに出たときだった。

 それからわたしたちは、他愛もない雑談をして別れた。会話の主導権を握っていたのはマスミ先輩で、わたしにも部長にも分かる話、例えば学校の先生の話だとか、そういうことで延々と盛り上がっていられた。昨日と同じくわたしの乗る電車が先に来たとき、先にさよならしなければいけないのが寂しかったくらいだ。

 マスミ先輩に「また明日」と言われ、咄嗟に同じ言葉を返してしまったけれど、次に会うのは一体いつになるのだろう。わたしとマスミ先輩の接点は部長しかないし、その部長本人はちょっと俯いたまま、わたしに向かって手を上げただけで、ひとこと交わす余裕もなく、電車の扉は無慈悲に閉まった。

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