第5話 初めてのデート
デート【date】
① 日付。
② 男女が前もって時間や場所を打ち合わせて、会うこと。しかし、現代では男女間でなくともデートと呼ぶことがある。
トキに連れて来られた場所はショッピングモールと呼ばれるところだった。中にはいろんな店が入っており、見慣れぬものがたくさん並んでいた。
「ツチノコ!どこ行きましょうか?」
「私はなんもわかんないぞ」
「うーん・・・とりあえずブラブラして楽しそうなお店を探しましょう!」
「絶対にはぐれないようにしてくださいね?」
「ん」
「不安だから手を繋がせてくれ」
「えっ」
ツチノコに唐突に手を出され、少々驚くトキ。そしてそこから、少し考える。
え?これってどうなの?なんかそういう風に見えたりしない?いやいやいや教授達じゃないんだし。てか、初めて会ったときハグしたし。
ん?それってひょっとして世間的にはもう出来上がってる?よく考えたらこれってデート?
あれ?あれれれ??
「嫌だったか?」
「いえいえ!い、行きましょう!」
出された手を握り、頭の中で結論を出す。
なんか・・・私またヘンだな・・・
でも嬉しいからいっか!
トキは決して友達が少ないわけではないが、ここまで親しい友達は初めてだった。故に、このような事態は初めてだし、昨日の今日なのでどうしてもツチノコをそういう風に意識してしまう。「どこまでツチノコといったのですか?」「いつ食べるのであるか?」という二人の言葉が鮮明に頭の中に甦る。
「・・・トキ」
「ええ?はい。なんですか?」
不意に呼びかけられたので少しびっくりした。
「アレなんだ?」
ツチノコが指さしたのは楽器店。
ギターやトランペットがショーウィンドウに並べられている。
「あれは『楽器』というものを売るところですよ。覗いていきましょう」
「多分買えるものは無いですが・・・トホホ」
中に入ると和洋中の様々な楽器や、全く聞いたことの無いようなどこかの国の民族楽器まで売っていた。
ツチノコは中楽器のコーナーの前に立ち止まり、一つの楽器をじっと見つめている。
「どうしました?ツチノコ」
「いや・・・これにそっくりなのが洞窟に落ちてたんだ。使い方がわからないし、こうして綺麗なのと比べると汚れてたが。もの珍しかったから寝どこにとっておいたな」
「・・・これ、なんて読むんだ?」
ツチノコはその楽器の横に貼ってある札をさした。
「うーん・・・?多分、ニコですかね。
「ほぉ、こいつ『にこ』って言うのか。」
「今度いっぺん帰って持ってきてみるかな?」
「いいですね!私も一回ツチノコの家見てみたいです!」
「・・・面白いもんじゃないぞ?」
少し店内を回って、今度はトキが立ち止まる。
「このアコーディオンって楽器、たしかナウさんが使ってたなぁ」
「よく私の歌に合わせて弾いてくれたな~」
「ところで、ツチノコお腹減りませんか?」
「ああ、言われてみればそうだな・・・」
ぐう。
言ったそこからツチノコのお腹が鳴る。恥ずかしそうに顔を赤らめるツチノコに、トキは微笑みながら声をかける。
「ふふ、ご飯食べに行きましょうか」
ところ変わってここはフードコート。
「これ、みんな食べ物なのか?めちゃくちゃ色々あるぞ」
「そうですよ~?ツチノコ、どれが食べたいですか?」
「選んでいいのか?」
「どうぞ?なかなかこんな機会無いので慎重に選んでくださいね?」
「コレ!」
「聞いてましたか今の?」
「いや・・・直感的に美味しそうだったから・・・」
「ああいや、別にいいんですよ?ラーメンですか・・・私は好きですよ、おすすめです」
「らーめん?の中にも色々あるんだな?」
「そうですね。初めて食べるならスタンダードに醤油がいいと思いますよ?」
「じゃあそれにするかな」
一番混雑する時間は過ぎていたが、それでもラーメン屋のブースの前には人が並んでいた。
(私はアレですかね?)
自分達の番が回ってくる。
「ご注文は?」
「し・・・醤油ラーメン・・・」ボソボソ
「すみませんもう一度よろしいですか?」
「ふえっ!?」
「醤油ラーメンと、激辛味噌ラーメンで!」
「かしこまりました!お会計1600円丁度になります」
ヒラリと五千円札を一枚。
「5000円から~。3400円のお釣りになりまーす。35番でお待ちください!」
「はーい」
空いてる二人席を見つけ、そこに座る。
「助かったぞ、ありがとうトキ。」
「いえいえ、大丈夫ですよ!」
「ところで、トキは何頼んだんだ?」
「激辛味噌ラーメンです」
「激辛?」
「とっても辛いってことですよ~。私、大好きなんです」
「そ、そうか」(歌声酷いって言われる原因の一つなのでは・・・?)
「35番でお待ちのお客様~」
「あ、できましたよツチノコ!貰いに行きましょう!」
「お、だな」
「これが・・・ラーメン!」
食欲そそる良い匂い。きらきらと綺麗なスープ。その上を彩る様々な具たち。
(ところで・・・)
「美味しそうですね!」
トキの元にはふつふつと煮える真っ赤なスープ。ここからでもわかる強烈な匂い。スープに負けないくらい赤い具材。
(ほんとに同じ『ラーメン』なのか・・・?)
「いただきましょう!ツチノコ!・・・ツチノコ?」
「あ、いや何でもない、食べよう」
「では・・・」
「「いただきます!」」
(うまい・・・うまいけどなんだアレ!?トキは美味しそうにしてるけどやべー匂いしてるぞ!?前にいるだけで目が痛いぞ!)
「美味しいですか?ツチノコ」
「ああ、とっても美味い。本当に地上には美味しいものがたくさんあるんだな」
考えてみれば、ツチノコが地上に出た理由の一つでもある。
「・・・ところで、トキは美味しいか?」
「?」
「ええ、美味しいですよ?」
「それならいいんだが・・・」
「???」
ツチノコは食の好みは人それぞれだと学んだ。
「ふー、美味しかったですね!」
「そうだな!」
フードコートを出て、またモール内をブラブラする。
「あ、あの雑貨屋寄りましょうよ!」
「ざっか?」
「いろんな小物が置いてあるお店ですよ!ささ、行きましょ?」
雑貨屋の中。二人でうろうろしていると、二人同時に、とあるものの前で立ち止まった。
「これ、かわいいですね?」
「そうだな?綺麗だ」
そこにあったのは、花の形をしたアクセサリー。髪留めやブローチ、指輪などいろんな種類がある。六枚ほどの外側に反った花びらと、何本かの雄しべと一本の雌しべがぴょんとまっすぐに飛び出ている。三〇〇円と値札が付いている。
「お値段安めですし、買っていきましょうか?」
「いいのか?」
「私も気に入ったので。どれがいいですか?」
しばらく悩んだ後、ツチノコはひとつのブローチを取り出した。
「これだな。面白い形してる」
ツチノコが選んだものは、発色のよいオレンジ色で、花びらの反り方が強いだけでなく雄しべ雌しべも外側に反り返っていた。
「確かに面白い形ですね?私はこれかな」
トキは周りとあまり変わらない形で、白い花が付いたヘアゴムを選んだ。
「綺麗だな?可愛らしいというか・・・」
「そうですね。そろそろ日も暮れますし、これ買って帰りますか」
レジで会計を済ませ、外に出た。
「おお、綺麗な夕日だな?」
「・・・そうですね。お、いい歌詞が浮かんできますね・・・それではここで一曲!」
「ゆうぐれ~そ~ら~に ゆびーをそっと~ かさーねたらー♪」
「はじーめまーしーて~ きみ~をもっとー しりーたーい なっ♪」
「ふう・・・」
「おぉ・・・」
歌い終わって満足そうなトキに、ツチノコはパチパチと手を鳴らす。
「我ながらいい曲が・・・曲が・・・」
トキは思う。気分に任せて思いっきり歌ってしまったが、なかなか恥ずかしい曲である。客観的に見ればいい曲だが、本人の前では流石に・・・
「やっぱりいい歌だな」
「これからもよろしく頼むぞ、トキ」
「あっはいこちらこそ!えへ、えへへ」
「どれ、帰るか?」
「そうですね!暗くなっちゃいます!」
教授・・・准教授・・・
私は、あなた達とは同族ではないです・・・多分・・・たぶん。
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