人でなし西萩の夢小説

 私の名前は##NAME1##。名字が##NAME2##で名前が##NAME3##なの。変な名前でしょ?


 この名前のせいで昔から私はものすごいいじめを受けていたの。無視されたり馬鹿にされたり、グループに入れてもらえなかったり……こんな名前じゃなかったらって昔から何度も思ってた。


 そんな毎日が終わったのは、とある男子との出会いだった。


 その日も私はクラスの子たちに仲間外れにされて、教室のすみっこの席で一人でお弁当を食べていたの。そこにやってきたのが西萩くんだった。


「君、どうして一人で食べてるの? みんなと食べればいいのに」

「そんなのできるわけないよ。だって私……いじめられてるし」

「へぇー、君って面白い子だね」


 最初はなにこの男子って思ったよね。そのまま購買にパン買いに行っちゃうし。


 だけどいじめられていた私に普通に接してくれたのは西萩くんだけだった。私はだんだん西萩くんに惹かれていったの。


「に、西萩くん、私と……付き合ってください!」

「うん、いいよ」


 私の想いを西萩くんは受け取ってくれた。それから卒業まで私たちは幸せな学校生活を送ったんだ。


 私のせいで西萩くんがいじめられるかもって最初は思ったけれど、西萩くんはそんなこと気にせずに私の隣にいてくれたの。本当に優しいんだ、西萩くんって。


 だけど別の大学に通うことになって、その幸せも崩れ始めた。


「西萩くんは私のことどう思ってるの!?」

「どうって言われてもなあ」


 サイゼリアに西萩くんを呼び出して、私たちはこれからの私たちについて話し合うことにした。最近の西萩くんったら大学を理由にして私とのデートの頻度が減ってたから、当然だよね。


「私のこと好きなの? 嫌いなの!?」


 そうやって問いつめると、西萩くんはうーんと考え込んだ後、真剣な顔で聞いてきたんだ。


「んー逆に聞くけど、君は好きって言ってほしいの?」

「え、それは……」


 改めて聞かれるとものすごく恥ずかしくて、私は顔を真っ赤にさせながら叫ぶように答えた。


「言ってほしいよ。言ってほしいに決まってるでしょ!」

「そっか。僕は君のことが好きだよ」


 西萩くんはにっこり笑ってそう言ってきた。その時私は気づいたんだ。西萩くんは私のことを試してたんだって。


 だけど西萩くんとの関係はその後もなかなか進展しなかった。



「西萩くん」0:25

「西萩くんったら」0:25

「ねぇ」0:25

「あのね」0:30

「今から手首切るから」0:30

「西萩くんに見ててほしいの」0:30


「え」1:20

「やめなよ、そんなの痛いじゃん」1:20


「もう遅いよ」1:20

「これ見て」1:20

(一本だけリスカした画像添付)

「西萩くんのせいなんだからね」1:21

「西萩くんが私のこと見ないから私こんなになっちゃったんだから」1:21

「ねえ」1:29

「聞いてるの」1:29

「既読で見てるのは分かってるんだからね!」1:29


「ごめん、ばんごはん食べてた」1:45

「リスカはよくないよ」1:45

「痛くないの?」1:45


「痛いに決まってるでしょ」1:45

「西萩くんのせいなんだから」1:45

「大学なんかに夢中になって私のこと見ない西萩くんが悪いんだから」1:45


「え?」1:50

「大学は大事でしょ」1:50

「就職のこととか考えたことないの?」1:50

「まあ僕はフリーターになるつもりだけど」1:51


「そういう問題じゃないでしょ!!!!!!!」1:51

「私は私と西萩くんのことを話してるの!!!!!!」1:51

「もういい」1:59

「もっと手首切って死んでやるから」1:59

(二本切った画像添付)2:00

(三本切った画像添付)2:10

「ねえ」2:20

「ねえ西萩くん」2:20

「西萩くん西萩くん西萩くん」2:21

「痛いよ、西萩くん」2:21

「私死んじゃうかも」2:21

「ねえったら」2:25

「ねえ!!!!!!!」2:25

「分かったよ」2:40

「西萩くんがそのつもりなら私にも考えがあるんだから」2:40

「殺してやる」2:40

「殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる」2:40

「一緒に死のう?」2:41

「ね、西萩くん」2:41

「西萩くんったら」2:41

「ねえ!!!!西萩くん!!!!!」2:41

「ねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえ」2:41


(以下数百通の未読メッセージ)


「ごめん寝てた。で、なんだったっけ」6:30



 朝になってから来たメッセージに私は思わずスマホを投げ捨てるところだった。


 なんで、西萩くん。なんでなんでなんでなんでなんで!!!!


 その後もだんだん西萩くんと私の間は開いていって、大学卒業とともに西萩くんからの返信も途絶えてしまった。


 だけど私、知ってるんだから。西萩くんの自宅も、いつも通る道も、通る時間だって。屋上の端に足をかけながら、私はごくりと唾を飲み込んだ。どれだけ遠く離れていても、私はあなたの上に落ちてみせるから。だから来世ではまた一緒になろうね。


 とん、と屋上を蹴り飛ばす。世界がひっくり返って、急速に地面が、西萩くんが近づいてくる。



――嗚呼、


きっとこれは


禁じられた


恋だった――





「おはよー、船江。聞いてよもう大変だったんだよー」

「もう昼だ。重役出勤とはいい度胸だな」

「仕方ないでしょ、本当に大変だったんだって。朝、普通に歩いてたら、いきなりビルから女の子が降ってきてさ」

「は?」

「自殺だよ自殺。もーそのせいで血だか体液だか脳みそ?だか分からないものでスーツの裾が汚れちゃったから、慌てて帰ってクリーニングに出してきたんだよ。血って時間が経つと取れなくなるしね」

「それは……災難だったな」

「ほんとにね。狙ったように僕の前に落ちてくるからびっくりしたよ」

「……お前に恨みのある奴だったんじゃないのか?」

「まさか。清廉潔白に生きてるこの僕に限ってそんなことあるわけないでしょ」

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