第115話 身勝手な罰
「おーい…おーい…!」
吹雪が止んだ後、ニホンオオカミは雪山で彼、メイを探していた。
まだ少々の雪が降っているが、そんなのは気にしてはいられない。
「おーい…ねぇ、ギンギツネ、もう疲れたから帰ってゲームやりたいんだけど」
「もう、ゲームは一旦忘れなさい!」
キツネのふたりも、協力して探しに回るが、一向に見つかる気配はない。
「やっぱり、もう…残念だけど、あの子は…」
「寒さを舐めたら、死ぬからね」
「そ、そんな…!」
残酷な宣告に、ニホンオオカミはショックを隠しきれなかった。
それは、身を貫くような電撃だった。
胸の痛みがジンジンと増してくる。
私のせいだ…私が…
しかし、彼女は首をブンブンと振った。
喉にとどまる悲しい気持ちと、涙を堪える。
「まだ分からないよ、絶対に見つけるから!」
そう言って彼女は駆けだす。
「ちょっと、待ちなさい!雪山は危ないんだから…」
キツネ達も、またその後を追って行くのであった。
◆
ナイフを手に取り──勢い強く体に突き刺した。
「グゥ…!ァ…」
鋭く熱さが体を突き抜けるようだった。
大量の血液が、服を赤く染め、滴り落ちる。
抜くと、抑制されていた血液が溢れてきた。
生ぬるいような、気持ちの悪い感覚を覚えた。
痛みはそれから、より一層強くなった。
精神を依代にして痛覚を抑制すると言っていたが、依代にできる精神力も無いようだ。
それでも、恐らく少しずつ犠牲にしているはずだ。
センは、そうして精神を壊そうとしているのだろう。
しかし、それが分かっていても、身勝手ながら、自分を一度は傷付けなければならなかった。
『おおぉ…!ついに、ついにやったね。感想はいかがかな』
「っ…はぁ、サイコーだぜ、クソ…」
荒く細かい息、激痛、生ぬるい血液。
最悪だが、最高だと錯覚していた。
許せなかった人…自分を、この手で一発刺した。
快感だった。
その痛みが、より現実味を帯びたものとしていたから、一層。
笑いが少し出る。
『そうだろう、そうだろう。さぁ、もう一発どうかな』
「悪いが…ハァ、遠慮しとくよ」
『ほう?』
しかし、これ以上彼の思惑通りになってはいけない。
幸いにも正気はまだ保っていた。
どうしても許せないが、これ以上はさらに悲惨な事態を呼ぶような気がした。
だから、この一発で終わりだ。
『中途半端…だねぇ』
「うるせぇ…一発でもやっておかねぇと俺の気が済まなかったんだよ…ッ」
『身勝手な奴だ』
「どの口が言ってやがる」
◆
少し休憩して、この建物を探索する事にした。
まだしばらく戻らない。
これは、身勝手な罰の延長線だ。
怪我をしたままの体に鞭打って探索するのも、その一環だ。
あの部屋の本棚の中には、読める本はひとつも無かった。
フレンズの体は再生力にも長けている、と聞く。
しかし、俺の体は特殊だ。
十分なエネルギーと精神を前提条件とし、それを消耗するのだ。
精神状態が宜しくないなら、その再生は人並みのものとなる。
「…それにしてもッ、いって…あのナイフはどうしたんだよ」
『イメージの力さ。この体は、イメージ次第で力の及ぶ範囲内なら変えられるのさ。
耳を消し、人のそれと何一つ変わらない状態にすることも可能だし、衣服も変えられる。
ナイフはその応用さ』
「あぁ、すげぇな…どうでもいい」
腹部を抑える手から、血液が滴り落ちながらも、ゆっくりながらも歩いた。
この建物は、一体何なのか。
それをまずは突き止めなければならない。
『…あまり、こういう手は使いたくはなかったのだが』
直後、激しい頭痛に襲われる。
「…ッ、アァァァァァァァ!?」
『チッ…、ギリギリ乗っ取れないな、よく耐えれるね、君』
「クソ…ハァァ、今に見てろ… 」
◆
ドアの開いていた部屋に入ると、まだ使いかけの応急キットらしきものがあったので、包帯を拝借する。
自分の体に、傷口を基準としてグルグルと巻き付けていく。
白い包帯を、鮮血が赤く染めていく。
『使い方を知っているのかな?』
「見様見真似だ、こんなの教わったこともない」
『君のことだから、そうだと思っていたよ!』
「バカにしやがって…」
服は一度全て脱いだ。
イメージの力、とやらを使って服を出そうとしても、上手くいかない。
『下手だね』
「シンプルに罵倒すんなって…」
そのイメージと数分格闘した結果、一応服は出てきた。
どんな素材が使われているのか気になるところではあるが、まぁ気にはしないでおく。
下に着るための白シャツ。
よく分からない文字と絵がプリントされている、よくあるものだ。
そして、黒いパーカー。フードも付いてる。
ニホンオオカミに合わせた茶色でなかったのは、恐らくイメージ力が足りてなかったのだ。
あと、紺のジーパンも出てきたが、これは今使ってるものと余り変わらないのでまぁ大丈夫だろう。
「よし…と」
『…はぁ、君は無駄に耐久力があるな。もう諦めた方が身のためだと私は思うんだがな』
「諦めねぇよ、何のために出てきたのかも分からなくなるからな」
そうは言うが、まだ彼女に合わせる顔もないので、再び探索を再開することにした。
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