でも、ここまで来たし。

@suzushige

第1話

何かに追いかけられて、追い詰められた先は、実家の2階。

北側の壁にある一台のピアノ。

逃げ場がなくて、どうしようかと迷っていると、なぜかピアノの後ろは切り立つ崖になっていて、そのまま深く落下していく私。


この夢を何回見たことだろう。あまりにこの夢を何回も見るので、最近はこのシチュエーションになると、「ああ、夢なんだ」と、夢の中でわかってしまう。


私が子供の頃はピアノ教室が大人気で、大抵の子供はピアノを習っていた。私の母もまさにそう。ましてや、親戚に芸大出のプロ指揮者がいた関係もあって、私の母は音楽教育にことさら熱心だったからもう大変。学校から家に帰るとほぼ毎日ピアノの前に座らされ、練習させられました。


私といえば、ピアノにまったく興味がないどころか、ピアノを男がやっていることそのものが恥ずかしく、ふてくされながら嫌々ピアノを弾いて(弾かされて)いました。そんな状態ですから、なんとか私をなだめすかしてピアノに向かわせていた母もさすがに途中からキレて、物差しで私の指をピシッと叩き、叩かれた私は涙ながらにピアノに向かうという悪循環。


親のいいなりにならざるを得ない(ピアノを練習しないと食事抜きという脅しは何よりも怖かった)間は、この地獄のようなピアノ練習が続きました。さすがに、反抗期である中学生にはやめることができましたが、私の記憶には深く刻み込まれました。


なにせ、大人になってもピアノの裏の崖から落ちる夢を見るくらいですから。






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