第12話 お花の妖精さん

 妖精と言えば定番はお花の妖精さんじゃないでしょうか?

 愛らしい姿、背中の羽をパタパタと花の周りを飛び回り人を癒す。そんな姿を妄想します。


 王道中の王道、お花の妖精さん。

 そう言えば、今まで見た事無いです。

 でもね、そろそろ定員オーバー気味な気がするんですよ。

 六畳のワンルームに、妖精さん達と子猫三匹。

 もう良いんじゃ無い?

 そんな時に限って出会いが訪れるものです。


 寒いし新しいコートが欲しいなと、休日にショッピングモールへ行った時の事です。

 たまたま私は、ガーデニングショップに立ち寄りました。

 冬にもこんなに咲いてる花があるんだなんて、私は呑気に花々を眺めていました。


 冬の花と言えば定番のパンジーやビオラから、オキザリス、シクラメン、クリスマスローズ等、様々な花が所狭しと並んでいます。

 見ているだけで、潤いを与えてくれます。

 寄せ植えも見つけました。綺麗ですね~!

 売り物っぽいけど値段をチラッと、うわっ高っ!

 流石に学生の私が手に出来る値段では無かったですが、ポット苗自体はそれ程高くありません。


「お花か~。いいな~」


 そんな事を呟いた時の事でした。

 お花の間に潜む影。

 そして目が合いました。小さく可憐な妖精さん。

 実物は想像以上に可愛い。羽はありませんけど、それが何だって言うんです。

 可愛いは正義です!


 目が合った瞬間、私の鼻先でひらひらと舞い始めました。

 可愛い妖精さんに懐かれると悪い気はしません。

 でも、この子ず~と私にひらひらと着いて来ます。

 私は尋ねました。


「あなた、お花の妖精さんでしょ? お花と一緒に居なくていいの?」


 お花の妖精さんはにこっと笑って、手招きして飛んでいきます。

 数ある花の中から、特定のポット苗に止まりました。


「もしかして、お勧めを教えてくれてるの?」


 お花の妖精さんは、笑顔で頷きます。


「でもな~。手入れとか面倒だし~」


 そう呟きチラッとお花の妖精さんを見ると、何だかボディーランゲージで私に訴えかけようとしてます。

 あ~、何となくわかった。この子、着いて来る気だ。

 花の手入れは任せろって言ってるんだ。

 どうしよう・・・


 私が暫く考えながら、じっとお花の妖精さんを見つめていると、段々と目を潤ませていきます。

 あ~泣きそうになってる。


「もう、仕方ないな~。うちに来るのね? いらっしゃい。それでお勧めは?」


 あんな可愛い子を泣かせては、女が廃るってもんですよ。

 お花の妖精さんは、嬉しそうにお勧めのポット苗を見繕っていきます。


 せっかくだから、白いプラスチックのフラワーポットと吊り下げ用のフックを、数点一緒に買いました。

 園芸用の腐葉土は?

 そんなの適当に選びます。うちには取って置きの妖精さんが居るんですから。

 土に関してはプロフェッショナルの、土の妖精さんにお任せしましょう。

 だけど、結構な荷物になりました。

 今日の目的であるコートは、園芸用品に化けました。グスン。


 園芸用品を持って、電車に乗ろうと思ったんですが土が重くて。

 こんな時こそ貸しを返してもらおうと、裕子ちゃんに電話しました。

 暇なんですかあの人、車で直ぐに駆け付けてくれました。


「何あんた、ガーデニング始めるの?」

「うん。ちょっと訳が有って」

「また、なんか変なのがくっ付いて来たとかそんな感じか。馬鹿ね」

「馬鹿じゃないよ。可愛いお花の妖精さんだよ」

「それは良いから、何買ったのよ」


 そう言って裕子ちゃんは私の荷物を見ます。

 しげしげと見つめた後、徐に失礼な事を言いました。


「地味ね。あんたとそっくり!」


 酷いでしょ?


「それだけじゃ駄目よ。せっかくだから、もっと飾りつけなきゃ! 豪華に行くわよ」


 あぁ、裕子ちゃんに電話した私が悪いのでしょうか?

 裕子ちゃんの車でホームセンターに連れて行かれます。


 ウッドデッッキにラティスにワイヤー等、色々買わされてやっと自宅に辿り着きました。

 その後も大変でした。

 ベランダにウッドデッキを敷いて、ラティスをベランダの支柱に取り付ける。

 フラワーポットに花を植えて、吊り下げフックでラティスに飾り付けていきます。

 裕子ちゃんも手伝ってくれたので、作業は小一時間程で終わりました。


 作業が気になるのか、モグやミィがウロチョロするし、お掃除の妖精さん達は、舞い散る土埃を片付ける為に忙しなく動き回るし、おまけに新しい仲間に興味津々な火、水、風の妖精さんが、お花の妖精さんに纏わりつくしで、私の自宅はお祭り騒ぎになってました。


 完成したのは白で統一された、小さいベランダガーデン。出来栄えには大満足です。

 お花の妖精さんも大喜びです。

 ベランダガーデンをクルクルと飛び回っています。


 お掃除の妖精さんも心なしか嬉しそう。

 お掃除の場所が増えたのがそんなに嬉しいのか・・・


 ラティスをよじ登ろうとするモグを抱えて、私は室内に戻ります。

 その間、水の妖精さんがお花に水をあげてくれました。

 でも、ふと私は気が付きました。


 お花の植え付けをしたのは私。ラティスを組み立てたのは裕子ちゃんと私。

 お花に水をあげたのは、水の妖精さん。

 土に栄養を与えてくれるのは、土の妖精さん。

 お花の妖精さんって、ポット苗を選んだだけで、何もしてなく無い?


 ガーデニングを少しでもやった事が有る人は、知ってると思います。

 花の苗は植え付けた所に根を生やし、生育していくものです。

 いくら、初心者でも育成し易いビオラでも、ポット苗を一株植え付けた所で、一日でフラワーポットいっぱいには成長しません。


 でも、ファンタジーはそこに有りました。

 翌朝目覚めてベランダを見ると、フラワーポットいっぱいに広がる花々。

 土の妖精さんが与えた肥料が良かったのか・・・

 まさか、肥料だけでこんな育ち方しませんよ。

 原因はこの子。お花の妖精さんです。

 どうやら、お花の妖精さんが本気出して、育成を速めた様です。

 様子を見に来た裕子ちゃんは、呆れた口調で言いました。


「やっぱりね」


 お花の妖精さんは、こまめに花がら摘みや摘心をやって、花の状態を維持してくれます。

 それはもう、嬉しそうに花の手入れをしています。

 水の妖精さんは、フンって顔をしながらもお尻をフリフリして、花に水をあげてます。

 土の妖精さんからは、自分が潜っているプランターにも花を植えろと、催促されました。

 根が邪魔にならないでしょうか?

 その内、花苗を買ってきてプランターにも植えてあげましょう。


 そんなこんなで、私の自宅に仲間が増えました。

 おまけに緑溢れるベランダになりました。

 どんどん豪華で、賑やかになっていく私の自宅です。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る