第102話 師匠
「じゃあ、俺は陽の気質が強いから、逆の陰の気質を高めればいいということか」
楓の説明を受け、葵は頭をひねった。楓は「そうだよ」と頷いた。それから間髪入れずに沙羅が楓に質問する。
「具体的にはどうするんですか?その、自分の持っている気質とは逆の気質を高めるには」
「それは人それぞれ。その人にあったやり方があるから、決まった方法はないんだ。単純に肉体を鍛えることで高めることができる人もいれば、精神的な部分が関わってくる人もいる。みんながどんな方法で逆の気質を高めるかは、それぞれの師匠が決めてくれると思うよ」
「師匠!?」
さらっと出てきた言葉に皆が声を揃えて反応した。楓はにっこり笑う。
「師匠は頭領が指名して、もう決まってるんだ」
「気味が悪いくらいに用意がいいな」
顔をしかめる九尾の発言を無視して楓は続ける。
「いい?今からそれぞれの師匠の名前を言うから、ちゃんと覚えてね。まず、沙羅ちゃんの師匠は……なんとこのあたし!」
「楓さんが!?私の?」
意外だと目を丸くする沙羅へ、楓は「よろしく」と無邪気に笑いかける。
「まあ、師匠って言っても、便宜上そう言ってるだけだから、敬語とかそう言うの気にしなくていいよ。普通に、楓って呼んで」
「あ、はい。いや、うん」
どう見ても同年代のくらいの女の子が、自分の師匠というのはやりづらかったのだろう。どこかほっとした様子で沙羅は頷く。
「じゃあ、次は京介。京介の師匠になるのは、土御門左京さん」
「は!?」
珍しく京介が取り乱した。
「土御門!?土御門って、あの……?」
「紫紺と同じ名字……?」
土御門と言われればまずそれが思い浮かび、葵は眉をひそめる。紫紺の血縁者なのだろうか。だとしても、なぜその名がここで出るのか。この山に、人間は招かれた葵たち以外にはいないはずなのに。
「どういうことですか?土御門といえば、陰陽師を輩出する一門の一つ。紫紺もそこの一門だ。なぜあやかしの里で、陰陽師の、人間の名が出るのです。その人がここにいるんですか」
険しい顔で尋ねる京介に対し、「いるよ。てか、いなきゃ言わないし」と楓はあっさりと答えた。それからうーんとしばし思案して、
「まあ。言われてみればウラの領域に人間がいるって変だよね。でも頭領はなぜか、山で行き倒れてた左京さんを気に入って、
いきなり身を乗り出したかと思えば大絶叫をかました楓の声をもろに浴び、京介は思わず耳をふさぐ。
「いや、さっきから言ってるんですけど。土御門は陰陽師の一門ってーー」
「うっそ!左京さんて陰陽師だったんだ。知らなかったあ。全然知らなかった。頭領は知ってたのかな。いやそりゃあ頭領だもの。知ってるよね。知ってて薬師として……。えええええ!!嘘!!!!」
床の上で頭を抱えてゴロンゴロンしだす楓に、葵は「楓!」と叫ぶ。
「びっくりしたのはわかったからちょっと落ち着け」
「わ、わかった、落ち着く」
おとなしく床の上に座りなおし、楓が話の続きを再開した。
「えっと……あとは誰だったっけ。……ああ、あおちゃんと九尾の師匠は、二人とも同じ。頭領だよ」
楓はにへら、と笑う。
「え」
「はあああああ!?」
なぜよりによって。九尾の間の抜けた声と、葵の絶叫が室内に響き渡る。また京介が耳を塞いだ。
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