止まらない波㊼
「それで? それでどうなっちゃったの、弟さんは!?」
小紋が聞き返した時、アリナの蒼く輝く瞳からひと筋の涙がこぼれ落ちた。
「わたくしたちは秘密警察と思われる集団に囲まれ、いきなりジェイソンだけがその男たちに連れていかれました。そしてジェイソンが連行された後は、何事も無かったようにその場が取り繕われました。きっと、一般の方々には何も見えていなかったのでしょう。まったくそこに事件性も捕り物も何事も無かったかのように……」
さらに、アリナは言葉を付け加える。
「何も知らないことは幸せなのだと思います。何も感じないことは平穏なのだと思います。その反面、知らないことは罪です。知らなければ何も考えませんから……。だから。知らないことは……。知らないことは……」
小紋は、アリナが諜報員の道を歩み、そしてヴェルデムンドの戦乱の中でも多大なる功績を上げた意味を知った。
(そうか。アリナさんは、あんな世界にしたくないという思いから……)
知ることを辞め、考えることを辞めた人々が地球の隅々に蔓延っていることをその目で知っていた小紋からすれば、それは納得がいく話である。
かつて、〝シンク・バイ・ユアセルフ〟という抵抗組織のリーダーを務めていたこともある小紋である。
その名付けられた組織名は、ヴェルデムンド新政府の中央システムの核心である〝ダーナフロイズン〟が、
【Think by yourself=自分で考えろ】
とだけ言葉を残して機能停止してしまったことに由来している。
当時から同じような憤りを感じていたアリナの一家にとっても、それは同じ目標でもあり、そして同じ意思でもあった。
「後で調べて知ったことなのですが、弟が成りすましていたフリシュラ・ベベットという少年は、これもまた十一才の少年らしからぬ異端児であったらしいのです。わたくしたちは、それを調べ上げられぬまま、あの場所に潜入してしまったのです」
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