止まらない波㊺

 だが、そんな彼女ら一家に信じられない不運が起きた。

「みんな、どうも様子が変だ。街が……。街の中が、妙にざわついている……」

 トップエージェントとして慣らした父が、繁華街を中心とした地区に、それまでとは違う何かを感じ取った。

「パパ……?」

「あなた……」

「とうさん……」

 父は言葉を介さず、他の三人に簡単な指のジェスチャーで危機の真相を伝える。

(なんですって……!? 秘密警察が動いているですって……)

 秘密警察とは、自ずと知れた反ヴェルデムンド組織を取り締まる公的機関の俗称である。

 彼らは、多くの鍛え上げられたエージェントと中央システムを司る大型人工知能によって構成され、収束された管理システムに背く輩を次々と検挙しまくる非常に優秀な組織である。

(まさか、こんなに早くバレるはずがない……)

(でも、あなた。この周囲で秘密警察が動き出したのであれば、もしかすると……)

(パパ。一体どうすれば……?)

(この場は一旦みんなちりぢりに別れた方がいいかな、とうさん?)

(いや、それでは返って不自然だ。ここは対象となった一家と同じように、和気あいあいとした雰囲気を醸し出してやり過ごそう……)

 彼女らの一家は、軽い指の触れ方と、瞳の振れ幅だけで会話を成立させることが出来る。肉体を改造させていない彼ら一家にとって、これ以上に無い意思伝達をするための方法である。

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