止まらない波㉜
正太郎に、言いし得ぬ無力感が立ちはだかる。
人は、信念こそあればどんなに妨害や困難があろうとも、それに立ち向かって行く気力を失わぬものだ。
がしかし、そのような不条理な困難を幾度となく味わえば、やがてその気力も折れてしまう。
「そういうことかよ……。そういうことだったんだな、マリダ。お前は、この俺に……」
いかに強靭な精神を宿した正太郎とて、対応仕切れぬ者に対しては無力を悟らざるを得ない。
「分かってる、分かっているさ。人間は自然と真っ向からやり合ったって勝ち目のねえことぐれえ。だがよ、これは俺に対する意図的な力だ。この俺に直接勝負を仕掛けるよりも、この方が得策だと踏んだ策略だ……」
どんなに論理で理解していても、それを行動によって示されれば、さすがの
正太郎は歯ぎしりをしながら、その場に手を着いた。そして声を噛み殺し泣いた。
「クソッ、クソッ……!!」
自分が至らなければ、自分がそれだけ努力すればいい。鍛え上げればいい。彼はそういう男だった。しかし、自分以外の存在にその手が及べば、やはりその限りではない。
元来、無力とはこういう時に感じるものだ。そしてそれは今まさに、彼の全身を止めどなく駆け巡っている最中であった。
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