止まらない波㉛

 正太郎の目の前は、狂った二体の巨人の暴れまくる姿である。

 チェカ・レビノホフも、その相方であったチェン・リーも、これからをになう彼らにとって大切な仲間であり、良き人材であった。

 しかし、正太郎はあの二人を元に戻す方法など知らない。知らないどころか、なぜあの二人のように、物理法則を無視してまでも巨大化してしまうのか謎である。

「クソッ、あん時もそうだった。俺が浮遊戦艦に取り込まれる前、ジェリーの姿をした勇斗も、その相棒だった早雲ちゃんも、感情が爆発した途端にあんなふうになっちまったんだ。こんなことってあるのかよ、こんなことって……」

 自分が目をかけていた若者たちが、無残にも人外の姿となって理性を失って行くのは彼にとって絶望的な光景だ。

 かつて、自身の成長に惜しみない尽力を捧げてくれた恩師、ゲネック・アルサンダールのあの言葉、

「羽間正太郎。お主の能力は、あの大空のように留まることを知らぬ。がしかし、このまま主がぬるま湯につかり続けていれば、その能力はやがて何ものにも役に立たぬゴミ以下のものとなってしまうだろう。だからだ。だからわしは、お主をより厳しく鍛えるのだ。なぜなら、お主の能力を最大限に引き出して鍛え上げることが、この儂の何ものにも代えがたい使命だからだ」

 正太郎は、師であるゲネックのこれ以上ない熱のこもった眼差しに応えるために死ぬ思いでついて行き、そして極限の限り身の心も鍛え抜いた。

「そうだ、そうだとも。だから、この俺は……」

 泣くに泣けぬとは、まさにこのことであろう。彼や彼女たち自身が、自ら正太郎の前から突然姿を消してしまうのならのざ知らず、まさかこのようなあり得ない力によってその意思もろとも消し去られてしまう。

「こんな事なら、お前らは俺と関わらなかった方が幸せだったのかもしれねえな……」

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