完全なる均衡⑯
「なんだって、方法がある!? それも、探り当てるんじゃなくて、拾い上げるだって!?」
「そうです。確実とは申し上げられませんが、この方法ならもしかすると、その方を良い意味でおびき寄せられるかもしれません。ゆえに、奥方どのにはもう少し、そのデュバラとか申す者のことをお聞きせねばならんかと」
それから正太郎と吾妻元少佐は、手製の木彫りの卓を囲みながら小紋の昔話に耳を傾けた。
「なるほど、その男は森を駆ける黒豹の如き俊敏さを持ち合わせておると」
「ええ。最初は僕も、デュバラさんに命を狙われたりしたんです。でも、その時僕を助けてくれたクリスさんに一目ぼれしちゃったらしくて……」
「案外、純粋な男なんだな。そのデュバラってやつ」
「そうだね。元々長い付き合いの婚約者は居たらしいんだけど、あの戦乱で亡くしちゃったみたいだから……」
それを聞いて、正太郎は幼馴染だった
小紋は、そんな正太郎の表情にチラリと目配せをしつつ、
「でもね、デュバラさんはとってもクリスさんのことを大切にしてたんだよ。それでいつしか、クリスさんのお腹の中に赤ちゃんが出来たんだけど……」
「ああ、そこで俺の姿をした〝リモノイド〟に連れ去られちまったんだっけな」
「そう、そうなんだよ。僕はあの時本当に悔しかった。悔しくて悔しくて仕方がなかった。もっと僕に実力があれば、あんなことにならなかったのに……」
「それはデュバラという男も同じ気持ちだったと思うぜ。当然、お前よりももっと強く同じことを思ったと思うぜ」
再び正太郎は、過去に命を賭して死んで行った者たちの顔ぶれを思い浮かべた。自分だけの力ではどうすることも出来ないと分かっていても、やはりそこはそう感じてしまう。これは人として逃れられない
「それで奥方どの。そのクリスティーナどのというお方についてですが……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます