完全なる均衡⑭

 正太郎は、手応えを感じていたものの、やはりそれは理想の域を超えてはいなかった。

「ううむ、これは仕方ねえことなのか。小紋は、あのちっこい身体で一人で一体のヴェロンを打ち負かすことが出来るようになった。だけどそれは……」

「はい。それは無論、あなたと奥方どのに備わった自在に視点を変えられる特別な力によるもの。それをかの隠密集団〝黄金の円月輪〟の言葉を借りれば……」

「確か、〝三心映操の法術〟……とか言うんですよね? 吾妻さん」

 正太郎と吾妻元少佐が、今後の訓練について打ち合わせしているところに、煎り豆の特製コーヒーが入ったカップを持って小紋が割って入った。

「おお、さすがは奥方どの。〝三心映操の法術〟のことを知っておいでか?」

「ええ。それは出自が黄金の円月輪のデュバラさんからしつこく聞かされていましたから……」

「ああ、そう言えば前に、そのデュバラとかいう男の話聞かされてたっけな。確か、あのクリスちゃんの旦那さんなんだっけ?」

「そうだよ。とっても誠実でかっこよくて頼りになる仲間だったんだ。あの山の核爆発に巻き込まれる前にはぐれちゃったんだけど……」

「つまり、そのデュバラって男の話では、黄金の円月輪には昔から伝わる〝三心映操の法術〟があるからこそ、お前とこの俺は容易にヴェロンを倒せるって話なんだな?」

「うん、そんな感じのこと言ってた」

「だけどよ、そのデュバラって男だってゲネックのおやっさんと同じとようにヴェロンを打ち負かせられるんだろう?」

「ええとね。難しいことは詳しく聞いてなかったんだけど、ゲネック先生やデュバラさんと同じ……ええとなんだっけ。そう、その円月輪の使い手なら、その〝三心映操の法術〟の能力が備わってなくったって倒せるって話してた」

「ほう、奥方どの。そのデュバラという男の話通りならば、その円月輪という武器が使えるようになれば、凶獣を打ち負かせるというのですな?」

「え、ええ、まあ……。でも、デュバラさんは凄い人でしたから。あの黄金の円月輪という組織の中でも、かなりの実力の持ち主だったみたいだし……」

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