完全なる均衡④

 そのマリダも、今やどうしているか知る由もない。

 この均衡を図られた世界は、未だのままである。だが、そうであるからこそまだまだ期待が持てるのだ。

 正太郎と小紋が、その井の中のパラダイスを訪れるたびに、住人の中に数名程度の天国思想に馴染まない連中が現れるのである。

「私は、あなた方の考えに賛同いたします。どうかこの私も連れて行っていただけませんでしょうか?」

「お、俺も、こんな気持ち悪りい場所なんかに居たくねえ。頼むからこの俺もアンタたちと一緒に行きてえ」

「あたし、こう見えてもその昔はフェイズウォーカーのパイロットやってたんだ。あんた見たところ、あの有名な〝背骨折り〟だろ? じゃあ、このあたしも連れて行っておくれよ。きっと役に立てるからさ」

 このような感じで、五十人規模の集団があれば、その中に一人や二人の〝いびつ〟に均衡を保てない輩が正太郎たちに話し掛けて来た。

 正太郎はそれを決して拒まず、これこそが付け入る隙であると考えていた。

「お前さん方には、きっとそれぞれの役割があるはずだ。そうだ、ここに居る全員にだ。今はまだ百名足らずだし、全員が戦闘できるほどのスキルを持っちゃいねえ。だがよ、それでも何か役に立てればいい。みんなの飯を作るも良し、疲れた時に冷てえ水を汲んできて、それを配るだけでも良し。こんな狂った世界に不満を持っているのなら、死ぬまで精一杯生きろ。それが俺たちのこの世界での役割だ」

 正太郎の下に集まった人々は、老若男女問わずしてそれぞれがそれぞれの役目を懸命に果たそうとした。それは、決して正太郎の指示によるものではない。彼らが彼らなりの能力を発揮出来ることに充実感を覚えていたからだ。


 それが功を奏したのは、あれから早三か月が過ぎようとした時である。

 当初は百名足らずだった彼らの集団も、ようやく三百名を超え、元あったヴェルデムンド世界の巨木の森の中に天然の要塞を築き始めたのであった。

「へへっ、いいじゃねえか。さすがはここに居る連中の半分がヴェルデムンド世界の経験者ってところだ。逞しいにもほどがあるってもんだぜ」

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