虹色の細胞㊵

 正太郎は、もうこれでいいような気がした。これ以上、なにを求め、なにと戦って行けば良いのか分からなくなってしまった。

 この温度も風も湿度も感じさせない平坦な大地には、人を恐怖に怯えさせ、過酷な現実に突き落とすような天敵も居なければ障害もない。

 それを無意識に感じ取った二人は、ここに居るだけで満たされた気分になっていた。

「戦う必要が無ければ、俺ァお前に何も教えるこたぁねえ。ならば、いっそこのと子作りにでも励むか」

「そ、そうだね……。うん、それがいいよ。わたしたちはもう、何も切羽詰まることは無いんだからね」

 この平坦な大地には、彼ら以外の人間は見当たらない。

 他の動物の気配もしなければ、それらがもたらす死骸や排泄物の類いですら見かけていない。

 それはもう、現代のアダムとイブとも言うべき二人だけの世界であり、ただひたすらに何が起ころうとも起きないことを前提として過ごしてゆくべき状況なのだ。

 正太郎は、小紋の着ているものを一枚一枚剥ぎ取って行った。小紋も恥ずかしがりながら、どこか嬉しそうに小さな胸を手で覆いながら正太郎に身を預けて行った。

「どうした、小紋? 怖いのか?」

「う、うん……。怖いって言うか、とても恥ずかしい。だって、わたし……すっごくちっちゃいから……」

「そんなことねえ。とて奇麗だぜ……」

 正太郎は、隠した手のひらを優しくのけると、彼女の震える乳房の先端に軽くキスをするのであった。

 

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