虹色の細胞㊴

 平坦な地平にも夕闇は訪れる。

 肌寒さもこれと言って感じることはなかった。ただ二人は、浜辺に身を寄せ合ったまま、はるか遠くに浮かぶ大森林の様相を眺めながら、

「とうとう動かなくなっちゃったね、わたしたちの……」

「ああ。燃料が切れちまったんだ。まあ、あれだけ無茶な動きをすれば仕方ねえか……」

 少しして、二人は明るいうちに数十キロメートル向こう側の大森林にまで辿り着く算段であったが、メインエンジン用の燃料タンクの破損によって、気が付いた時にはそれが空であることを知るしかなかった。

 一応のこと数日分の非常食は詰んでいたが、おかしなことに二人とも腹が全く減らなかった。

 そればかりか、

「なあ、小紋。俺たち、このままここに居てもいいんじゃねえのか?」

「そうだよね。ここに居ると、なんだか落ち着くし……。それに、ずっと羽間さんと一緒だから」

 ふわふわとした調子で語り合う両者の目は、まさに寝ぼけまなこ。互いに数年間も会えなかった思い人であるにもかかわらず、それ以上に身体すら求めようとしていない。

「何も起きねえんだったら、これでいいじゃねえか。なあ、小紋」

「そうだよね。あっちの世界みたいに身の危険もなければ、お腹もすかないんだし。それならさ、こうやって二人だけで寄り添って居られれば、もう幸せ一杯だよ」

 これは、かの浮遊戦艦の中にある夢うつつの非現実的な世界ではない。しかし、いかに非現実的なデータ上の世界でないにしろ、この現実世界には欲という概念もなければ、成長という概念もない。

 ここには、ただひたすらに時が流れて平穏という時間が与えられるだけなのである。

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