虹色の細胞㊱

 ※※※


「ふむ、ようやく成功ですな。これで全ての〝泡〟は融合を果たしました。これで世界は完全に統一された。あとは宇宙のシステムとやらを書き換えるのみです」

 リゲルデ・ワイズマン中佐は静かな笑みでこれを祝福した。

 彼らの念願は、

「ああ、これで人類の醜い争いは終了した。これからは、私利私欲で物事を判断しない世界になろう」

 ゲオルグ博士のなりをした鈴木源太郎博士が言った。

「お見事です。これも、あなたがお造りになられた人格コピーマシン《SUZUKI―XX》にことを発する〝五次元人〟のお陰です」

 大膳は、限りなくみなぎる心と同時に、ほぼ達成した宿願に対する思いに浸っていた。しかし、それと同時にみなぎる不安を感じていた。

「ここまで来て、不思議と浮かない顔をされておりますな、大膳殿?」

 リゲルデ・ワイズマン中佐は、大膳の方を見やるなり、これ当然とばかりにニヤリと笑って見せた。

「フフフ、中佐もお人が悪い」

「その心中にあるのは、無論、羽間正太郎のことでありましょう?」

 言われて大膳は思わず苦笑いせずにはいられない。

「ほほう、やはりそうじゃったか」

 そこに口をはさんだのは、ゲオルグ博士のなりをした鈴木源太郎博士である。

「まあ、当然のことじゃわな。かつて、このわしが見込んだ男じゃ。儂のこの計画を阻むも加速するも、あの男あってのことじゃったから」

 源太郎博士は、目を細めてそう言った。

「ええ。彼が私どもの計画に、素直に参画してくれさえすれば、このように世界がこじれることもなかったはずです」

 大膳が言うと、

「うむ。我々にとっても、奴はありとあらゆる〝世界の泡〟をまとめるべき存在じゃった。だが、奴は……」

「そうです。彼という人物がそこに存在するというだけで、裏にも表にもコインがひっくり返る性質がある。そして、今はコインが私どもの考えの裏に帰ってしまった」


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