虹色の細胞⑲
小紋も偽物もびしょ濡れになった。いや、びしょ濡れどころか噴き出した水は偽物の太ももの部分にまで
まさに大津波状態だった。さすがの巨躯のクリスティーナの偽物も、濁流が腰のあたりまで及ぶとじっとそこに耐えていられる状態ではなくなった。
小紋も必死になって偽物の赤髪にしがみついてはいるが、
(水が、僕の足元にまで……)
濁流が彼女の足首を巻き込むと、それだけで身体ごと持って行かれそうになる。
たった数分前まで、誰がこんなことになると予測出来たであろうか。未だ木々は揺り返しを止めない。噴き出された大水流の勢いがそれを助長させているからである。
やがて鳥が舞った。虫が群れを成して飛んで行った。近くに巣篭っていた幼い凶獣たちが天高くに逃げ
森の崩壊を感じた生きとし生ける生き物たちは皆、ここから退散せねば死を迎えることを知ったのだ。
生態系が壊れて行く――
誰の目にも明らかになったこの状況で、
(やっぱり、僕も、死ぬのかな……)
あきらめにも似た負の感情が、彼女の心を支配しようとしたとき、
「冗談じゃねえ。ここに来てお前らしくねえぜ」
頭上から、懐かしく聞き慣れた声が彼女の心を包み込んだ。
「え……!?」
その声の主は、反応する隙を与えてくれなかった。ただ小紋は、その深く温かい声にむかって、
「やっと会えた……」
と言って、意識を薄れさせていった。
※※※
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます