見えない扉㊾


 だが、何か違うのだ。小紋が出会って来た人々のそれとは何か違うものを感じたのだ。

(何だろう? 分からないよ。何が違うのか……)

 小紋が目を伏せてため息を吐いた瞬間である。

「ギャアアアア!!」

 鬱蒼とした大木が並ぶ向こう側から、けたたましい悲鳴が木霊して来た。

 彼女はゾッと背筋を冷やしたが、それを放って通り過ぎるわけにはいかなかった。

(こ、これも性分なんだよね……)

 女性しか存在しないと説明された〝聖都市サンクチュアラ〟のこの試験に、どすの利いた男性の断末魔を耳にすれば、知らぬ存ぜぬを通すには無理も生じる。

 小紋が駆け寄って近くを見渡すと、そこには、

「アンドロイド? じゃないね……。これは、ミックスの男の人の……」

 迷彩柄のかなり使い込まれた軍服を身にまとった男性が、肉体を真一文字に叩き切られていた。だが、その叩き切られた胴体からは、血の一滴すら滴っていない。

 一刀両断とまではいかないが、かなりの力で打ち込まれたのであろう。通常であれば、このようにミックスである存在が機械に換装された肉体を真っ二つにされたところで即死に至ることはない。

 だが、これはかなりの衝撃の結果である。機械に換装された胴の部分からの衝撃により、その逆走した電流がこの対象の生身である脳の部分や足の先にまで及び、何とも言えぬおどろおどろしい白煙と異臭を放っている。

「う、酷い臭い……」

 力任せにしては、あまりにも凄惨な光景であった。

 確かに今までにもこのような事象が無かったわけでない。だが、それはアンドロイドの暴走などが原因による不測の事態であり、このようにいかにも故意に危害を加えたとおぼしきものでない。



  

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