見えない扉㊽


 戸惑いを隠せぬ小紋は、両腕にたずさえた電磁トンファーをそっと腰ベルトに収めると、またクロスボウを担いで一歩前に足を踏み出す。

(何なんだろう、今の……? もしかして、カレンバナさんの殺気なのかな?)

 あれは間違いなく人の命を射貫くような気配だった。まるで今にも他人の命を地獄の底に落とし込もうとする鋭利で重厚で邪悪な気迫――。

 あの意識とも物理的なものとも判断がつかない抑揚のないネガティブな何かは、間違いなく生きとし生けるものを地の底にいざなおうとする強烈な意識そのものである。

(あれは絶対に肉食系植物なんかじゃないよ。多分あれは、人間……。そう、言うなれば〝怪物〟みたいなもの……)

 それは彼女には例えようのないものであった。

 彼女はそんな例えようのない何かに命を狙われていたのだ。得体の知れない途轍もない存在に。それも、一番警戒の薄い背後から。

 しかも、自分が自然に言葉を発してしまった、

『とんでもない力』

 とは、何のことなのだろう。

 彼女には、今まで知り合った〝手練れ〟の中の誰の物でもないを感じていたのだ。

 小紋にとって、最大のの持ち主は、間違いなく羽間正太郎で間違いない。

 そして、かつて〝闇を駆け抜ける黒豹〟とまで恐れられたデュバラ・デフーの存在も忘れてはならない。

 さらに、技や強さといった観点でなら、今やアンドロイド女王として君臨しているマリダ・ミル・クラルインも引けを取らぬ存在でもあるし、その護衛を任されていたクリスティーナ・浪野も間違いなくその一人である。

「そしてあのカレンバナさんもシグレバナさんも、敵に回したら相当なものなんだけど……」

 

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