見えない扉㊵
「まさしく……まさしく、身共はカレンバナに相違ありません」
問いかけに答えたその声の主は、巨木の枝葉の陰からそっと顔を出した。そう、その流れるような赤色の長髪。そして、中性的でありながらも美麗な顔立ちをした女性は、時を同じくして核の猛爆発に巻き込まれて行方知れずになったカレンバナその人である。
「カ、カレンバナさん!! カレンバナさん!!」
小紋は、その見知った人の姿を確認するや、無造作にクロスボウを放り出した。彼女はカレンバナの胸に飛び掛かろうとした。だが、
「お待ちになって、鳴子沢さま! 今はその時ではありません! あなた様は、
ここが戦場とお忘れか!?」
言われて小紋はハッとし、立ち止まった。カレンバナは、得意の必殺手裏剣を両手に構えている。
「いけませぬ、鳴子沢さま。ここは
「それに、何?」
小紋が震える声で問い掛けると、
「あなた様が、本当に鳴子沢さまである確信が持てませぬ」
「なんだって!?」
「ええ、そうなのです。あなた様が、本当に身共の知る鳴子沢さまであると証明で出来ませぬ。よって、容易に近づき合うのは命取りになり得るのです」
小紋は衝撃を受けた。あれだけ寝食を共にし、生死の境を乗り越えてきた相手に信用されぬとは、これいかに。
「カレンバナさん、僕だよ! 僕は正真正銘の鳴子沢小紋だよ!!」
必死になって言う小紋だが、
「いけませぬ、それがいけませぬというのです。ここは試練なのです! もし、いまそこにおわす鳴子沢さまが、五次元人の成り代わりでないという証明がなされぬ限り、身共はあなた様を受け止めることは出来ませぬ!!」
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