見えない扉㊴


 小紋は気配を消すために息を止めた。もしやもすれば、もう感づかれている可能性もある。

 だが、ここは定石どおりに気配を消し、そして敵を迎え撃つ体勢を取っておかなければならない。

 端末の記号がそこで止まった。どうやら、相手も小紋の気配に気づいてしまったようだ。

「あのアンノウンとの距離は、直線距離にして五十メートル圏内……。このクロスボウの正確な直接射程距離は約三十メートルと言ったところ。所々にある草派の障害物を差し引いても、二十メートルが限界だよ……」

 言わずもがな、この世界は巨木と巨大な木の葉で覆われた密林である。いきなりそのような障害物から敵が飛び出して来たとしても、かなり前に遭遇したローゼンデビルのように打ち負かせるとは限らない。

「あれは真正面から襲って来るだけの単純バカな生き物だったから」

 小紋はそう言って、自らの恐怖心を押し殺した。未知なる者との遭遇は油断が命取りになる。

 小紋が息継ぎの間を取った。もう一分近くが経過したため、息が持たなくなったのだ。

 その時である――

「その息遣いは、もしやして……。鳴子沢さま?」

 巨大な草葉の向こう側から、聞き慣れた声が及んできた。

「え? もしかして、その声はカレンバナ……さん?」

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