見えない扉㉔


 小紋は、半ばキツネにつままれた気分だった。意識もあまり定かではないが、全ての情報を受け入れられていない。

「だ、だって、僕……。あんなに戻りたかったのに」

 念願叶ったこの状況を、そのままそっくり受け入れられぬのは当然のことだろう。

 決して努力したわけではない。決して望んでこうなったわけでもない。

 ただ、

「成り行きと言う結果も御座います。今は、ただそれを受け入れるのも良いことだと存じます」

 桃色のプロテクトスーツの女性は微笑んで言った。

 この桃色のプロテクトスーツには見覚えがある。そう、これは父大膳の側近であったクリスティーナがまとっていた軍事用強化服である。

「もしかしてあなたは、僕のお父様とご関係が?」

「はい。確かに私は、あなた様の御父上である鳴子沢大膳様の部下の一人でありました。そして今は、女王マリダ様の親衛隊の一人であります」

 その女性は、ひいらぎサトミルと名乗った。ストレートの黒髪を肩まで伸ばした和のおもむきを感じさせるスレンダーな美人である。

「そして、ここでひと月の間、あなたの身の回りのお世話をしていたのが」

「エリル・クラルインです」

「フェフェリ・クラルインです」

「クラルイン? クラルインって……」

「そう。女王マリダ様と同じクラルイン社で生を受けた生粋の〝ドール〟なのですよ」

 二人は古風な純白の看護師の衣装を身にまとい、軽くひざを曲げてお辞儀をしてみせた。

 互いに肌の色は白色だが、どこか金色の髪とたたずまいがマリダの雰囲気を彷彿とさせる。

「もしかして、僕は意識が無かったんですか?」

「ええ、ひと月の間。その間は、わたくしエリルと」

「わたくしフェフェリが、あなた様のお身体のお世話を致しておりましたわ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る