見えない扉⑱


 この〝ヴェルデムンド症候群〟の特効薬は見つからず、未だワクチン開発ですらはかどっていない。

「事実上、との玄関口を閉ざされたままだから、なぜ僕らのような渡航歴のある人々だけに抗体免疫があるのかすら分からない状態だからね。せっかく落ち着いてきたと思ったものを、また……」

 春馬の失望の表情に、ヴィクトリアは、

「作戦としては秀逸ね。真っ向から仕掛けず、また人間の痛いところを突いて本題から目をらせようとするなんて。これで、私たちの兵糧攻め計画よりも、さらに恐怖を煽ることに成功しているわ」

「そうだね。人類は、あのウィルスにトラウマを植え付けられているからね」

「ウィルスというのは寄生体よ。その寄生体が、宿主を全滅させるわけがないから、本来なら弱毒化していくのが当然なのよね」

「しかし、このウィルスに限っては、どうやらひどくなる一方だ。なにせ、ヒューマンチューニング手術を受けた人々ですら、また感染症にあえいでいるし……」

 今度の〝ヴェルデムンド症候群〟には、新しい症状があった。

 それは、〝ミックス〟たるヒューマンチューニング手術を受けた人々にも罹患することが明らかになったからだった。

 特に顕著なのは、身体を機械に置き換えた部分にウィルスが入り込む事象が報告されており、そこに一旦ウィルスが入り込むと、機械の部分だけが溶解を起こし、異形の生物のように醜い姿に変貌してしまうのだ。

「これは、明らかにナノマシンウィルスよね」

「そうさ。誰かの手によって、意図的に作られたものさ」

「これは、私たちへの宣戦布告とも言えるわ」

「そうだね。つまり、今はこのぐらいのことで済んでいるけど……」

「これ以上のことも出来るって言っているようなものよ。あなたのお父様は」

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