全世界接近戦㊺


 必死で彼女らの後を追いかける小紋。

 その後を、人食い蜂のようにしつこく追い回す銀色の円月輪。

 しかし、妖艶な脚線美を見せる元87部隊の後ろ姿は、女であることを忘れたかのように大股で飛び跳ねるように右往左往して逃げ飛び回っている。彼女らにすれば、もう生きるか死ぬかの瀬戸際なのだ。

(きっと今、カレンバナさんもシグレバナさんも、恐怖で一杯なはずだ。だって、敵が全く見えていないんだから……)

 誰しも、攻撃をして来た相手を認識することすら出来なければ、恐怖におののくのは当然である。

 さすがの小紋ですら、この攻撃の相手の姿を認識できているわけではない。

(こんな時、羽間さんなら、どうする……)

 瞬時に小紋はそう思った。

 彼女の師匠である羽間正太郎は、いつもこのような不測の事態を予測して、攻撃の戦略を練る。

 その時、彼女はふと正太郎の言葉を思い起こした。

「なあ、小紋。俺たちにとって、敵ってのはいつも見えているものばかりじゃねえ。いや、見えてねえ敵の方が大半を占めているってもんだ。な、そうだろ?」

「う、うん……。言われてみると、そうかもね」

「そうかもね、じゃねえだろ。お前、親父さんが長官やってる発明法取締局のエージェントやってんだろ? そしたら、お前が摘発する相手だって、今俺が言った意味合いでの敵みたいなもんじゃねえか」

「ま、まあ、そうだよね。でも、それがどうかしたの?」

「どうかしたのじゃねえよ。いいか、小紋。つまり、この俺が言いてえことはな」

「うん」

「敵となる相手ってのは、こっちの目に見えていようが見えてなかろうが、目的が分かれば、おのずとその姿まで浮き彫りになって来るってことなんだよ」

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