全世界接近戦㉓
しかし、彼女らに一切の光明は訪れなかった。
その年は、例年稀にみる寒波の接近により、まだ十一月だと言うのに、大粒の雪が舞い降りて来た。
中部地方の山岳地帯ということもあって、寒風の吹きおろしもただならない。
生身の身体である小紋にとって、この厳しい冷えはとても堪えるものであり、そして彼女の体力を否応なく奪ってゆく。
「鳴子沢さま。さあ、今夜も身共らの間に挟まってお眠りくださいまし」
「身共らは、こういった場所での機能を上げるために、故意に体温を上げることが出来るのです。さあ、早く」
キャンプも三夜目に突入するころになると、87部隊の二人は残りのエネルギーを惜しむこともなく、小紋の小さな体を間にして寄り添って眠るようになった。
「すごくあったかい……。ありがとう、カレンバナさん。シグレバナさん……」
人の体温が、こんなにも至福であるものか。
87部隊の二人の豊満な肢体に挟まれて眠ると、小紋は幼くして生き別れた母の温もりを思い起こす。
そして、かのヴェルデムンド世界で羽間正太郎との修業時代、一度だけ彼に抱き抱えられて一夜を共にしたことを思い返す。
(あの時は、いきなりの氷嵐に遭って、身動きが取れなくなっちゃったんだっけ……)
それは小紋が、羽間正太郎に弟子入りを認められてひと月が経った時である。
「いいか、小紋。今日は、あの崖の向こうにキャンプを張って、木登りの訓練と、そこから宙づりになっての射撃訓練をするぞ。いいか、気合入れて行けよ」
「はい、羽間さん」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます