全世界接近戦㉒


 しかし、言うは易しである。

 あれから、谷山の断崖絶壁から北方面に向かえば向かうほど、道は険しくなる。それにも増して、北方面は標高も増している。

 季節はもう秋を通り越して、冬間近であった。

 夜は冷え、日中でも太陽が高く、日差しが次第に弱くなって来ている。

 底冷えという言葉をよく耳にするが、一切機械の身体に身を染めていない小紋にとって、この標高が高い場所での身のやり方はこたえてしまうのだ。

「今からでも遅くはありません、鳴子沢さま。麓の集落に戻りましょう。あそこなら、暖の取れる何かしらの家屋があったはず」

「そうです。あそこの集落に人は住んでおりませんが、身を温めるだけの囲炉裏や火鉢の類いは御座いました」

 この道中に立ち寄った古民家が集う集落には、人の気配はなかった。しかし、そこで人ひとりが数週間過ごすだけの食料や薪の蓄えは確認された。

「だめだよう。そんなことをしてたら、カレンバナさんとシグレバナさんのエネルギーが切れちゃうでしょ! 僕は何とかなるから、早くこの山向こうの自治区に行かなきゃ」

 これには、さすがの87部隊の二人も参ってしまった。

 いくら他人を思いやるためだとは言え、この小紋のかたくなな姿勢は逆に心配の種である。

 上を見れば極寒が生身を襲い、下を見ればエネルギー切れの恐怖が機械の身体を襲う。

 このどうしようもないネガティブな選択をどうにかして乗り越えなければ、彼女らに明日の太陽を拝める道はない。

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