全世界接近戦⑯


 島崎の脳裏に焼き付く、一人娘の無念の姿――。

 その姿を思い起こすたびに、彼の憎悪に青白い炎が増してゆく。

「あの事件は、なりふり構わぬ新政府軍が起こした人災だ。そして、あの事件の実行犯である87部隊を私は許せぬ。どんな理由があろうとも、娘の未来を奪った奴らを、私は絶対に許せぬ……」


 ※※※


「シグレバナさん。カレンバナさんの様子はどう?」

 小紋ら一行は、激しい一戦のあった渓谷を離れ、気配の目立たぬ洞窟に身を寄せていた。

「ええ、なんとか右足の連結は完了しました。ですが……」

 意識をオフにしたカレンバナの横で、シグレバナは憂鬱そうな表情で振り返る。

「まさか、戦闘に支障があるほどダメージを負っちゃったんですか?」

「いえ、そうではありません。けれど、その……身共らのバッテリー残量が」

「あっ……」

 シグレバナが、戦闘服をめくり上げ、わき腹を開いてインジケーターランプを見せる。

「そ、そうか。昨夜の戦闘で、かなりのエネルギーを使っちゃったんだね」

「ええ」

 この時点で、シグレバナのバッテリー残量は半分を切り、47パーセント。しかし、カレンバナに至っては、もう四割を切ってしまっている。

「どこかで、エネルギーを補充しないといけないね」

「ですが、それをどこで……」

 無論、彼女らが島崎の居る寄留地に引き返すわけにはいかない。たとえ引き返したとしても、ヒューマンチューニング手術を施された人間を十分に養えるほどの電力を持っているわけではない。

「なら、やっぱり、そうなるよね」

「はい。どこかの自治区への侵入というわけですね」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る