【第二十三章】全世界接近戦

全世界接近戦①


 ※※※


「カレンバナ! カレンバナ! しっかり!!」

 傷ついたカレンバナを抱きかかえるシグレバナは、涙が枯れ果てるまで彼女に呼びかけた。

「大丈夫だよ、カレンバナさん。カレンバナさんのバイタルサインはとても弱いけど、少し経てば回復するから」

 小紋は、全面フードマスクで全身を覆った格好でカレンバナの身体チェックを行っていた。彼女の右わき腹から出るコードに端末を繋げ、小紋はふうと安堵の一息を吐く。

 魅惑の悪魔とも恐れられた彼女らであったが、

(やっぱり、シグレバナさんも人並みの女の人なんだな……)

 小紋は精密機器機で一杯になったカレンバナの身体をまじまじと見つめた。

 しかし、この窮地を救えたのは、彼女らがならぬ存在だったことが功を奏している。

 谷を降り下った時に、小紋がシグレバナに渡したのは、キャンプ料理に使用する白灯油あった。

 しかし、シグレバナに手渡された白灯油のみでは、ヴェロンに対して何ら追い込むことは出来ない。

 確かに火や熱を嫌う性質を持つヴェロンだが、そればかりで百メートル上空を飛び回る相手に対し、効果的なダメージを負わせるまでには至らない。

 しかし、シグレバナは元特殊工作員であり、毒盛り、毒仕掛けのスペシャリストである。

 小紋は、あのキャンプ飯の団らんでのカレンバナの一言に賭けたのだ。

「やっぱり、シグレバナさんの身体の中には、あらゆる毒薬が内蔵されていたんですね」

 言われて、シグレバナがこくりとうなづいた。

「ええ……。ですが、このような物が、今さらになって役立つなんて思ってもみませんでした」

 彼女ら、ヒューマンチューニング手術を受けたサイボーグ人間にとって、自らの武器を体内に内蔵するなど造作もないことである。

「身共らは、これをこの数年もの間、この危険な液体を封印していたのです。もう、人はあやめぬと心に誓った上で……」



 

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