災厄の降臨㉔


 言われて、しばし両名は押し黙った。

 そしてシグレバナが、スッパリと引き裂かれた腕をつなぎ直す素振りをしながら、

「し、しかし……しかしそれでは、鳴子沢さま事態の御負担が大きすぎます。腐っても身共らは元第87特殊工作部隊で御座います。この身体の八割以上を機械マシンに置き換えた戦闘のプロフェッショナルです。そんな身共らが、生身のあなた様を前面に押し出すというのはプライドが許しませぬ」

「そうです、鳴子沢さま。シグレバナの言う通りです」

 と、ハンモックの残骸を拾い集めるカレンバナも呼応し、

「身共らは、戦乱中に新政府軍を裏切り、自らの意思で雲隠れした情けない身の上で御座います。がしかし、その技に至りましては未だ衰えを見せておらぬと自負しております」

 彼女らの言葉に熱がこもる。

 しかし、小紋とてその言葉をすべて真に受けることは出来ない。なぜなら、

「でも……お二人には、今の敵は倒せないよね?」

 それが全ての答えであった。

 言いたくはなかった。小紋にとって、最もつらい言動である。

 これが戦乱中の凶獣ヴェロンならば何とかなったのかもしれない。

 しかし、

「やはり、アップグレードすらされていない身共らの身体では……」

「考えるまでもなく力不足というわけなのですね……」

 二人はとても賢い。それぐらいのことは、重々承知していた。

 しかし、度重なる地球環境の変化に翻弄され、電力不足という障害も重なり、実力を思う存分発揮出来ぬ状況に、彼女らなりの言いし得ぬ焦りというものがある。

 そしてさらに、彼女たちの特徴である身体の八割以上を換装させてしまったことが、今になってネガティブな尾を引いてしまっている。

「確かに鳴子沢さまの仰る通りです……。あのような低俗で品のない凶獣ですら進化しているというのに」

「身共らと来たら、もう記憶にすら薄らいだ戦乱時の身体のままなのですからね……」

 

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