スミルノフの野望㊼


「しかし、偵察に出すと言っても……」

 一同は顔を見合わせた。

 なぜなら、彼らにはそれを行うだけの人員が居ない。それだけ体力、知力、観察力の三拍子を満たした人材が揃わないのだ。

「でしたら、この私が……」

 桜庭に問い掛けられて、

「いかん。君はもう、とうが経ちすぎている。いくら君がその昔、反乱軍の調査部に属していたとはいえ、それはもう過去の話だ」

 島崎は、すぐさま彼の意見を却下した。そして、

「私だって、この身体がまともならば、この私自身があの山向こうに行って、この目で見て来たいぐらいなんだ……」

 島崎は、自由に動かすことの出来ない左足と右腕をさすりながら言葉を漏らす。

 彼ら、この寄留地で生活する者は、皆があの弱肉強食ヴェルデムンドの世界の一線に身を置いた者たちである。

 がしかし、彼らは皆、その厳しい生活状況や、混乱の中にある戦闘によって肉体に損傷を受けてしまった、言わばリタイア組である。

 この寄留地に暮らす者たちは、いかにネイチャーであろうともミックスであろうとも、過去の主義主張などで一切区別などはしない。彼らは、その厳しい状況の経験から、互いの意見を尊重し合い、互いに協力し合うことこそが穏やかに生きて行く道であると知ったのだ。たまにこそ衝突めいた議論こそあるものの、そうやって良き関係を築き上げてきたのだ。

 だが、この現代文明とはかなりかけ離れた寄留地では、ミックスの存在にとって必要不可欠な電力供給の不足は否めず、そしてさらに、住民の高齢化が進んでいる。

 ゆえに、彼らにとってこの状況はかなり厳しい。彼らがコミュニティーを築き、そしてこの寄留地を建設した真の目的は、

「あの弱肉強食の世界に、私らなりの安寧の地を建設したかった」

 と言うことである。

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