スミルノフの野望㉜


 ※※※

 

 とうとう、小紋とデュバラの危惧は、思いがけない形で現れた。

 いや、これも彼女らの予測の範疇だったのかもしれない。

「ば、馬鹿なっ……!?」

 デュバラは、その目を疑った。なんと〝成人の赤子〟らの身体が、彼の目の前で驚くべき変化を見せたからだ。

「そ、そんな……。彼らもまた新たな〝融合種〟となり得るのか!?」

 今の今まで、あたかも血に飢えた獣のように四つ足で地を這い、あらゆる障壁までも容易に移動を繰り返していた成人の赤子らであった。がしかし、塀の中の面々の攻撃を受けた興奮により、彼らの身体は赤熱した金属のように溶解し、これまでに地球上で確認されたことがない二足歩行の甲殻生命体へと変化して行ったのだ。

「あ、あれが……。あれが、人類の急進化だとでも言うのか!?」

 成人の赤子らは一様にその姿を変化させて行った。それは、羽を広げるでもなく、虫のように這いつくばり木の陰に隠れるでもなく、ただ二足歩行の殻を被った新人類としてその姿を具現化したのだ。

 塀の中の面々は驚愕した。そして、一瞬のひるみそこ見せたものの、それも予定通りとばかりに超振動長槍シャルア・パイクを次々と打ち込んでみせた。

「ああっ、なんと……!!」

 しかしデュバラは、そこで再び信じられぬ光景を目の当たりにする。それはなんと、あの禁断の武器であった超振動長槍シャルア・パイクが、成人の赤子の進化した姿――急進化人類ラディカリエンスらの身体に跳ね返り、傷一つ負わせられなかったからである。

 して、驚いたのはそればかりではない。それを目の当たりにした塀の中の面々は、一人の号令者の合図とともに白装束を放り脱ぐと、これもまたこれまでの人類とはかけ離れた異様なとげとげしい姿を現したのである。

「な、なんだあの異様な姿は!? あれは、古来より人類が想像する限りの悪魔の姿ではないか!? なんと、私は悪い夢でも見させられているのではないか!?」



 


 

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