スミルノフの野望㉚


 禁断の武器、超振動長槍シャルア・パイクの使用により、よもや成人の赤子たちの劣勢は完全なるものと思えた。だがしかし、デュバラのその目に映る光景には、幾分かの反撃の兆しが見え隠れしていた。

「どういうことだ!? 動きが、成人の赤子らの動きが。あれはまるで……」

 成人の赤子らの集団は、おおよそ二千……おそらくは三千人を超えている。

 して、その大集団に属す前線の多くは、見た目に年老いた者が目立っていた。

 だが、その後ろから来る第二集団と思しき布陣には、筋骨隆々とした若者の姿が多く目された。

「ま、まさか!? 奴ら、それが狙いだったとでも言うのか!?」

 これまで、成人の赤子と言えば、あのとち狂ったウィルスの作用によって理性を忘れ、知性をも忘却の彼方に追いやられた人々というイメージがあった。

 しかし、ここに見る彼らの行動は、まさに知性そのもの。と言うより、新種の生き物が、何らかの突然変異によって進化の過程を経ている光景に感じられた。

「以前にも、私はこのような光景を目の当たりにしたことがある……。そ、そうだ。あの弱肉強食ヴェルデの世界で、我らの拠点を食いつぶそうとした、凶獣たちの進化の過程を再現しているかのようだ」

 デュバラとて、あの異様な光景を忘れるはずがない。

 あれはもう数年前のことである。第十五寄留ブラフマデージャに数多の種類の、数多の凶獣が意図をもって大襲来して来た事実。

 一度目は、羽間正太郎のによって、それを防ぐことが出来たが、二度目の襲来には、その規模の果てしなさに反撃すらままならなくなり、彼らの拠点は崩壊を迎えてしまったのだ。

「ま、まさか、そのようなことが……。まさか、これが、あの再来となり得るはずが……」


 ※※※


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る