スミルノフの野望㉙


 ※※※


 塀の中の人々は、その攻撃の手を止めなかった。それはまるで、私怨と嫌悪に満ちた天敵同士の争い。とても人間同士の争いではなかった。

 デュバラは、懐に手を伸ばした。そして、常に隠し持っているチャクラムに触れた瞬間、

「いや、待て、デュバラ・デフー!! ここで俺は何をせんと言うのだ!? いや、私がここで何が出来るというのだ……」

 彼は、内なる自身と、彼と融合した二体の英雄に答えを求めた。先の戦乱でゲネック・アルサンダールと共に戦った人工知能〝パールバティ〟。そして、あの弱肉強食の世界ヴェルデムンドのヒエラルキーの頂点に君臨した凶獣王〝ヴェリダス〟。

 デュバラは、時に内なる彼らと対話することにより、あらゆる困難を乗り越えて来た。そして、この瞬間をして今もなお対話するのだ。

「我が半身ヴェリダス、そしてパールバディよ。そなたたちなら、この状況をどう見る? どう考えるのだ!?」

 しかし、彼らからは何の返答もなかった。

「うむ、そうか。そういうことか。なら分かった。これも、私に対する試練よ」

 内なる彼らの心は、何も言葉のみで語られるわけではない。デュバラは知っているのだ。言葉によって解決されるのみが、解決の糸口ではないことを。

「ならば、ここは様子を窺うしかあるまい。答えを性急に導き出そうとするのは、私の昔からの悪い癖だ」

 言って、デュバラはチャクラムを手にするだけに留まった。

 ここで彼が〝成人の赤子〟たちに加勢したとしても、正確な状況をつかむことすら出来ない。

 だが、塀の中の人々は、攻撃の手を緩めなかった。そして、成人の赤子らの劣勢は手に取るように見て取れた。

 しかし、ここでデュバラは何か異様なものを感じた。

「何かおかしいぞ? どういうことなのだ!? 気のせいか少し前から、成人の赤子たちの損傷が明らかに減って来ている」


 

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