スミルノフの野望㉓


 その頃小紋は、デュバラがおびき寄せた〝成人の赤子〟たちに向かって来る塀の中の人々を待ち受けるため、とある集落の塀の外に身を隠していた。

 勿論、オツのラウンドビークルを林の奥に待機させているが、感知されると都合が悪いので、一人高木の茂みの中に身を寄せて、それが今か今かと気を張りつつ待ち受けているのである。

「作戦開始から、だいぶ時間が経っているけど、デュバラさん大丈夫かな? デュバラさんのことだから、下手にやられちゃうなんてことはないだろうけど……。それでもなんだか心配だよう」

 通信機器の類いは、発信源が特定されてしまうために使用できない。塀の外の近傍には、外郭からの攻撃を防ぐための簡易レーダーサイトが何層にも設置されている。

 さすれば、それだけでも村々を囲う塀の中は小さな要塞と言えた。こうして外側との交流を隔てることにより、この策の首謀者は情報の孤立化を謀っているのだと察せられる。

「前に下調べに来たとき、偶然塀の中の人たちを直接見る機会があったけど……。なんだか目つきが怪しかったもんなあ。あれは、完全に自分たち以外の人たちを一切信じようとしない、すっごいおかしな目だったよ……」

 その小紋の観察眼は、あながち間違いではなかった。なぜなら、彼ら塀の中の人々は、今にも爆発寸前の状態にあったからだ。

「あれ? うそ……!? まだ何も始まってないのに、どうして扉が開いたの……?」

 小紋が驚くのも無理はなかった。なぜなら、まだデュバラとその一行が全く影も形も姿を現していないのにもかかわらず、非常警報とともに正面の扉が全開になってしまったからだ。


 

 

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