驚天動地の呪い㊼


 ※※※


 東京を後にした小紋たちは、道中様々な場所に立ち寄り、この世界の多大なる変化を感じ取った。

 エネルギーに逼迫し、ほとんどの車が立ち往生したこと。

 そして、物流の停滞により経済活動が破綻の一途を辿っていること。

 それに伴い食糧が困窮し、人々の活動自体が自ずと制限されるようになったこと。

 それでも人力を要する現場仕事などには、自治体が用意した巡回バスなどが使用され、これまで培われて来た安全基準などの概念さえ払拭されるほどの山積みの人々が回送されることになった。

「こんな状況なんて、僕は白黒フィルムの資料映像でしか見たことなかったよ。僕の生きている間に、こういう場面に出くわすなんて想像もしてなかった……」

「さもありなん。これが向こう側の世界だったらあり得るのかもしれんが……」

 二日ほど前から、オツのラウンドビークルの後方には、何本ものチェーンやロープが張り巡らされるようになった。

 このつがいの先には、動力を持たないコンテナ車やリヤカー引かれ、その箱の中には労働に勤しもうとしている人々がすし詰め状態でごった返しているのだ。

「ごめんね、デュバラさん。でもさあ、あれだけ必死にお願いされたら、放っておけないよ」

「気にするな、小紋殿。この世界の危機に、この私だけの願望のみを押し通すのは人ならざる者のする行為だ。そなたが気に病む話ではない」

 無論、人々の安全を鑑みれば、おのずと速度は抑え気味になる。ほかに走っている車両は少なくとも、一歩間違えれば転倒などの大事故になる可能性すらはらんでいるのだ。

 小紋は、人工知能〝オツ〟にそれを言い聞かし、彼らの乗る乗り合い貨物車両の揺れを出来るだけ低減させる速度まで落とさせている。

「みんな色んな悩みを抱えて生きているんだよね。それでも、こんなとんでもない状況にだって負けないで生きて行こうとしているんだ。僕らだって、負けてなんかいられないよね。ね? デュバラさん」

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