驚天動地の呪い㉘


「さあ、ここが今夜あなたに泊まって頂くお部屋よ。わたくしが、大切なお客様があったとき用に、特別にあしらっておいた特別室よ」

「う、うわあ……」

 小紋は、その部屋に入るや否やため息が漏れた。

 竜子に促されて入ったその部屋は、建物の最上階にあった。部屋はリビングと寝室の二部屋に分かれていたが、元々がビジネスマン向けのホテルであったために、さほど優雅に飾り立てられてはいない。

 だが、その南向きの窓から見えるパノラマの光景は、銀河の無造作にばら撒かれた星配列の構成に勝るとも劣らない神秘さが醸し出されていた。

「どうかしら? お気に召して?」

「は、はい。とっても……」

 竜子は、うっとりと見入る小紋を横目に、さらに空中庭園に繋がる窓を開いた。

 そこから吹き抜ける風はとても穏やかで、やさぐれつつあった小紋の心に爽やかな何か注ぎ込む。

「ねえ、素敵でしょう? もっとも、浮遊戦艦が現れる以前なら、もっとロマンティックだったでしょうに」

 ぽかーんと窓の外を見続けている小紋に、竜子は微笑みながら部屋の照明を落とした。

「いいえ、そんなことない。それでもすごいきれいです……。控えめに言っても、僕には百万ドルの夜景に相当します」

 言いながらも、小紋は窓に張り付いた。

「うふふ、それは良かった」

 竜子は、小紋の様子を窺って満足げに言った。

 実は、竜子がこの建物の改装に出資した額は、事実上の〝百万ドル〟という数値をはるかに超えている。いくら貨幣価値が下がり、物価が跳ね上がった昨今であっても、百万ドル以上の金額をボランティア同然の事業に出資するのは、並大抵の覚悟ではない。

 しかも、それにも増して世間は労力不足も重なっている。頼みの綱の〝アンドロイド〟や〝ミックス〟の存在は、度重なる電力不足の煽りを受け、その運用ですらままならない状態なのだ。

 いくら人気女優だったとは言え、小紋は彼女が行っている行為に、多少の疑念を抱いていた。

(でも、何か変。だって、こんな時代にこんなこと……。きっと竜子さんは、僕に何か隠してる……)


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