偽りの平穏、そして混沌㊵
鳴子沢小紋に、醜態を晒されてしまったスミルノフは、根回しを行っていた売り先相手に対し、弁解するための情報行脚をして回らなければならなかった。
あれだけ大々的に、
「あなた方の組織にとって、とても有益なショーが開催されます。楽しみになさっていてください」
と触れ込んだにもかかわらず、その結果は、自らの計略の甘さと相手を見くびっていたことが招いた、とんだ茶番で終わってしまった。
無論、あの〝リモノイドA2くノ一バージョン〟を売り込まれた複数の組織のバイヤーたちが、彼の前口上につられ、その挙句にあのような結末を見せられたのでは、落胆の色を濃くするしかない。
彼が、その内容を推し勧めている〝リモノイドA2〟は、前述した通り、人間の素体にその人格をそのままそっくりコピーした人工知能を複数機埋め込むことによって操作が可能になるリモート・アンドロイドであり、その操作システムのことを示す。
どんなに科学が発展しようとも、これまでに人ひとりが単体で複数のリモート・アンドロイドを操作出来たという事例はなかった。
だが、彼はこのリモノイドA2の開発メーカーであるフューザー・アルケミスト社の開発部門から打電を受けた時点で、
「この製品は、この世界に革命をもたらすぞ!!」
と、その場で目が血走り、即孤島に繋いだ高速艇の
興味を抱いたのは、無論この世界でも指折りの頭脳と行動力を持った強者たちである。
スミルノフ
「そういった連中は、普段から自分の存在自体が、あと二人以上欲しい、いやあと三人は欲しい、と嘆いているのですよ、桐野博士。そして自分の存在が、あと七人もいればこの世界を軽く牛耳ることが出来る、などと豪語しているのです」
とのことである。
「そうなのです。真に高い知能を持った連中というものは、あんな〝墓石売り〟のように暴力による力押しの野蛮人ではないのです。連中は、全て交渉こそが戦略と考えています。それならば、体と心が同時に他人を説得で来たならば、それに越したことはないのですよ」
※※※
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