偽りの平穏、そして混沌㉜


 決してスミルノフの選択が誤っているわけではなかった。目の前で、多くの人々が凶獣に食われて行ってしまう光景を目撃すれば、それは当然そう考えてもおかしくない。そして、それまでにない能力を欲するのもごく自然な考えだ。

 スミルノフは、自分の身体を最新鋭のサイボーグに換装させるとともに、その有用性を自分の身体を用いて人々に喧伝した。

 そしてその甲斐あってか、彼は一代でそれなりの商売ビジネスを体現することが出来るようになり、彼自身も根拠のない自信家から、この大地に根を張った実力者への階段を上り始めたのだった。

 両者の活躍は、その業界の筋では有名だった。

 互いに一匹狼の商売人マーチャントではあったが、その目利き能力と誠実な対応によって、顧客のみならず、売り手企業側からの信頼をも勝ち得ていたのだ。

 そこで彼らに一つの打電があった。そう、最新鋭のフェイズウォーカーの売り込みに対する依頼である。

「私どもが開発した、この最新鋭技術であるフェイズウォーカーの有用性を、あなた方の顧客たちに喧伝して回って頂きたい」

 というものである。

 その当時、フェイズウォーカーはフェイズワーカーと比較しても格段に高価な物であり、そして人工知能の有用性も微々たるものであった。

 しかし、開発元の企業側の努力によって日々性能を上げていることは明らかであったし、肉体的な負担も軽減されていることも明白の事実であった。

 しかし、それにも増して技術の性能が高まっているヒューマンチューニングサイボーグ化技術。

 そんな背景から、スミルノフはこれまでのフェイズワーカーを推し、そしてそこにこれまで儲けた潤沢な利益を、そちらの投資へと促したのだ。

「これからの主役はヒューマンチューニングのサイボーグ化技術だ。人が人工知能に取って代わられる時代など来るものか」


 

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