偽りのシステム246


 なぜかアイシャは、そのやり取りに一つも違和感を覚えなかった。とりもなおさず、それはエスタロッサにも同じことが言えた。

「それで、アイシャ姫。なぜにこのような場所で手間取っておられるのでしょうか?」

 エスタロッサの機体と同じくして、他のイシュトール・イシュⅣ型までもが、アイシャの周りを取り囲んで、次々とひざまずいてゆく。

「はい、そのことなのですが……。どうやら小型核を仕掛けた方々は、この先に行けぬようにと頑強な壁をこしらえてしまったようです。ほらごらんなさい、位置図面から見ても間違いはございません」

 アイシャが示した方向に目をやると、エスタロッサは失礼と一言声を掛けて、その先に手を添える。

「なるほど。これは厄介でございますね。この障壁は、硬くて分厚いハイセレニウム特殊合金の壁に覆われております。これでは姫の大円月輪の威力をもってしても、到底かないますまい」

 エスタロッサは、苦虫を嚙み潰したように言葉を吐き捨てる。

「その通りなのです。先ほどから、何度もこのわたくしの円月輪で試してみたのですが、多少の傷が付くぐらいでビクともしないのです」

 ハイセレニウム特殊合金とは、近年開発された戦闘マシン用の装甲素材である。しかし、これまでの素材よりも頑強であるとともに、今までの素材よりも質量が重いため、未だ実戦には使用されていなかった。

「ううむ、エリケン大佐め。現段階で役立たずの素材を、こんな形で活用して来るとは……」

「なんと、そのような物が……。これでは時間が間に合いません」

 アイシャが、絶望の色を濃くしたと同時に、

「姫。その御心配には及びません。それゆえの我らなのであります」

 エスタロッサはそう言いうと、

「こんな物は、一つのまやかしに過ぎません。一人ならばいざ知らず、複数の我らの力さえあれば……」

 

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