偽りのシステム238
その時、エナはあることに気づいた。今まで傍にいたアイシャの姿が見当たらないことに。
(ま、まさか……!?)
そのまさかである。アイシャは、まだ交渉の台にすら立っていないにもかかわらず、すでに一番遠くに位置している小型核のある場所へと走り出していたのだ。
「何をやっているの、アイシャさん!? あんなに無茶はしないって約束したでしょう!!」
高速で移動するアイシャの脳に、直接語り掛けるエナだったが、
「エナさんの計算によれば、あの位置の小型核爆弾を持って帰って来るにはぎりぎりのラインです。ここはエナさんの交渉を信じています」
「もう、無茶苦茶なことはしないでって言ったじゃない!! あたし、あなたを失いたくない!!」
「ありがとうございます、エナさん。エナさんに、そうおっしゃって頂けるのでしたら……」
アイシャはそう言って、地下道を駆け抜ける速度を上げた。右へ左へ、上へ下へと入り組んだ坑道を疾風の如く潜り抜けて行く。
「アイシャさん、あなたの行動はとても愚かだわ!! あなたが一人でそんなことをしたって、何も解決しないのよ!! それであなたがまた悲しい目に遭ったら、ショウタロウ・ハザマだって立ち直れないかもしれないのよ!!」
「分かっています、エナさん。でも、わたくしは、それでもこの地を守り通さなければならないのです。そして、悲しい人をこれ以上増やしたくはないのです!!」
「も、もしかしてそれって……」
「ええ、あの女中尉さんたちだって、このまま死んでゆくにはまだ早いんです!!」
「馬鹿なの!? あなたは、あんな人たちのことまで考えて!!」
「そうです、わたくしは本当の馬鹿なのかもしれません。わたくしもエナさん同様、あの女中尉さんたちの考え方に賛同し兼ねますし、これまでの行為を、とても許し難いものだと考えております」
「でしょう? なのに、なぜ!?」
「ですが、わたくしは、あの方たちがこのまま自らの決着もつけずにこの世から消え失せて行くのは、もっと許せないんです!!」
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