偽りのシステム228



 エスタロッサに、全く策がないわけではなかった。

 直属の上司であるエリケンにすら、内に秘めたものを吐露することもなく進めて来た計画――。それが世界に混沌を招くための破壊計画である。

「自らの安寧をお望みになる大佐殿には申し訳ないのですが、私はこの数年の間、自らの居場所をこの手で構築したいと考えて参りました。それには、フィヨードル上等兵のような、世界の破滅を望む兵隊を集める必要があったのです」

 彼女の指揮する七個中隊の約半数以上が、戦乱後に採用された追加徴用兵である。そしてその多くは、エスタロッサ中尉の推薦によって入隊した強者つわものたちで構成されている。

 しかし新兵たちに、これまでのような戦術的な技量など必要なかった。まして当然のように、独特な主義主張や自国を愛する精神性の必要もなかった。

 ただ彼女が欲したのは、心の奥底から湧き出る破滅の感情である。

「我々十八番の大隊に、心技体などという概念は必要ないのです。そんなカビまみれの古臭い概念は、全てネイチャーの名を冠する者たちだけがちちくり合っていれば良いのです。私たち十八番の大隊は、力こそが正義なのです。そして私たちは、混沌とした場所が安寧の住処すみかなのです。なぜなら、それこそが私たちの力を思う存分発揮出来る唯一の居場所だからなのです……」

 順次発進させたイシュトール・イシュⅣ型7号機から14号機のパイロットたちも、これもまた破滅主義者の集まりである。

 エスタロッサ中尉ら第十八特殊任務大隊の機体が、なぜ一様に精神をコントロールされているのかと言えば、それは正に彼ら兵士のそのほとんどが破滅主義者であり、犯罪歴のある、またはそれ相応の罪を犯してきた捕食者だからである。

「そんな彼らは、一筋縄では死にません。きっと、この私の理想を体現してくれるに違いありません」


 ※※※




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