偽りのシステム221


 

「それは、なのでごぜえますよ!!」

 エナの捨て台詞に呼応するかのように、生物感情兵器ファッキンが小刻み足で詰め寄る。

 何という不快な足音――。何という不快なリズム――。何という不快な身動き――。

 手足が左右に三本ずつ生えた肉塊のお化けは、全てが不規則であり、ガニ股でうごめいている。そのたたずまいからして、その全体から発せられるものは不協和音以外の何物でもなかった。理由こそ分からないが、アイシャの背筋に激しい悪寒が走る。

「アイシャさん、怯まないで、正気を保って!! 相手の動きはさっきより鈍いわ!!」

「は、はい……!!」

 言われてアイシャは、ファッキンが突き出してきたナイフを身をひるがえして避けた……つもりだった。

「あっ……!?」

 にもかかわらず、アイシャのわき腹に一筋の鮮血がほとばしる。「痛っ!!」

 余りにも不思議なことだった。理解不能だった。予期せぬ出来事だった。完璧に避けたはずの刃先が、彼女に深いダメージを負わせたのだ。

「イーッヒッヒ!! イーッヒッヒ!! イーッヒッヒ!! これはあたしが思ったよりも効果的でごぜえますな」

 ファッキンは、肉塊のしわの間からよだれをたらし、そこから伸びた長い舌先でナイフの血ををねぶり取る。

「だ、大丈夫、アイシャさん!? 平気!?」

 エナが慌てて呼びかけると、

「え、ええ……大丈夫です。で……でも、なぜ?」

 アイシャは、切り裂かれたショックで膝立ちになり、右わき腹を両手で抑えた。「今のは、完璧に避けたはずなのに……」

「そうね。確かに、あたしにも今のは完璧に避けたように見えた。けど、現実はそうじゃなかった。一体、どういう仕掛けなの!?」


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