偽りのシステム218
「そ、そんな……」
良心が破壊される。そのようなことが実際にあるのか分からないが、現実にアイシャはこの数十秒の間に、得も言われぬ破壊衝動が込み上げて来ている。自身、それがとても危険なものだということを自覚している。
当のファッキン上等兵も、まだ自分の姿に納得がいかぬようで、戸惑いを見せたままだが、
「アイシャさん、時間の問題よ。アイツがあの姿を受け入れてしまえば、必ずそれを利用してこちら側に仕掛けて来るわ。そうしたら、本当に一戦交えなくちゃならない」
そうなれば、箱入りのアイシャとて、箱入りのままの自分ではいられなくなる。本当に人を殺めなくてはならなくなる。とても醜い感情を伴って――。
「ごめんね、アイシャさん。あたし、本当に間違ってたわ。あなたをこんな戦いに巻き込むべきではなかった。これでは、アイシャさんがアイシャさんではなくなってしまうもの……」
エナは、真の底から後悔している。元々エナは、社会的集団の役割論の研究をしていた一人者だ。そんな彼女にとって、感情を揺さぶることによって、人の思考を一時的にでも画一化するということは、その人の社会的役割を破壊することに他ならない。つまり、生物感情兵器とは、大多数の人の思考を画一的に狂わす装置とも言えるのだ。
そんなあり得ない兵器と、世界で初めて相対するのが、箱入りのアイシャであるという皮肉。これがエナの後悔の最大の理由なのだ。
しかし、そんな渋面のエナに対し、
「仕方ありませんよ、エナさん。わたくしは、エナさんとこうしてお友達になれただけでも、とても嬉しいのです。それに、この戦いは何と言っても、正太郎様のためでもあるんです。このわたくしがどうなろうとも、あの方のためならば何でも出来ます」
「アイシャさん。あなたって人は……」
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