偽りのシステム193


「もう、なによ! 今すごく傷ついたわ! これでもあたし、すごい頑張ったんだから!」

 エナは、可愛らしいほっぺたを目一杯ふくらましてアイシャに詰め寄る。

「ご……ごめんなさい。で、でも……だって、これは……」

 それでもアイシャは、笑いを堪えるのに精一杯だった。その〝敵〟なるものの暴れまくる雄姿を目に入れれば目に入れるほど、妙な愛らしさが際立ってしまう。なにせ、当のエリケン八個中隊は、に完全に恐怖しきっているのだ。

「あちらの大佐さん。認識できないもの……って言ってましたよね? エ、エナさん。これも、さ……さ、作戦の想定内でしょうか?」

 アイシャは、まだ笑いが収まらない。

「ア、アイシャさん!! まさかあのアイシャさんが、そんなひどいことを言うの!? それってすごい皮肉よ!?」

「ご、ごめんなさい……。でも、でも……」

 言いながら、アイシャの肩はまだ震えが収まらない。胸中、悪いとは分かっていながらも、この緊迫した状況の中で、エナが創り出した踊り狂う〝敵〟の姿は、あまりにも正反対の姿なのである。

「これが作戦なら、さぞかしあたしって完璧なまでの天才なんでしょうけどね……。残念ながら、そうでないところが悔しいわ……」

 エナは、そう言葉を吐いて足元の赤土に目をやる。

 今はこれで上手くいっているが、このままこちら側の思う通りに事が運ぶはずがない。

「アイシャさん。そんなに笑っていられるのも今のうちかもよ。敵もさるものだから、そのうちこれが電脳世界のギミックだって気付くはずだわ」

「そうなのですか?」

 エナの真剣な声色に、アイシャは笑うのをやめた。

「そうよ、現実はそう甘くない。あなた、さっき言ってたけど、この局面をあたし一人でくぐり抜けられるなんて、そんなの大間違いだわ。あくまであたしは電脳を操ることが出来るだけの存在なの。現実に反映出来るのは、そういったインフラが整った場所だけよ」


 ※※※ 

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