偽りのシステム168

 

 正太郎のホログラムの身体は、完全にカプセルの中に消えた。と同時に、彼の叫び声すら完全に途絶えたのだ。

「ショ……ショウタロウ」

 エナは涙目になり、ペタリと赤い砂の大地に膝をついた。電脳世界では、ほとんど無敵に近い彼女だが、こうも現実に不可思議なことが起これば何も手出しができない。

 その時である。再びカプセルの内側から激しい光が滲みだしてきたかと思うと、その中に居る美しい巨躯が身体をくねり始めた。

「な、なに!? 何が起きているの!?」

 その美しき融合種ハイブリッダーが、カプセルの中で悶え始めると、そのままカプセルの透明のフードに網の目のようなヒビが入った。

「割れるの……!? 割れてしまうの!?」

 エナは、もしかすると中に居るであろう羽間正太郎の本体が心配になった。この火星の気圧では、いくら人類に必要な大気が存在していたとしても、肉体の恒常性を維持できないのだ。

「そ、そんな……。あたしには何も出来ないっていうの」

 エナは絶望を感じた、その時であった。カプセルの中の美しき融合種の翼が透明のフードを突き破ったのだ。

「ああ……」

 きらめくガラス片がその一瞬で粉みじんに舞い散った。そしてその中から現れた美しき桜色に染まる融合種が、エナの目の前にそびえ立った。

「エナさん、エナさん? 大丈夫ですか? 聞こえてますか? わたくしです。アイシャ・アルサンダールです」

「え、ええっ!? ま、まさか、まさか……」

「ええ、そのまさかです。実は、このわたくしも驚いております。ですが、どうやら、この身体は、今のわたくしの実体のようです」

 なんと、桜色にきらめきを見せるこの融合種ハイブリッダーこそ、正太郎のペンダントトップに閉じ込められていたアイシャ・アルサンダールの意思が憑依したものだった。

「そ、そんな、まさか。アイシャさん……。もしかして、これはあなたのお兄さんの仕業なの……?」



 

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