偽りのシステム165


 エスタロッサは、羽間正太郎を殺したかった。あの傲慢な考えを持つ男を亡き者にしたいのだ。

(私は、あの男がこの世に存在し続ける限り、この複雑な思いに悩まなければなりません……。こうして過去の記憶が劣化し続ける現状いま、この記憶が消え失せる前に複雑な気持ちを払拭しなければならないのです……)

 

 ※※※


 黒いケーブルの先にあるものを見た時に、二人は愕然とした。

「な、なにぃ!? 俺の身体じゃねえのか!!」

 正太郎とエナは、曇りガラスの向こう側に見えるカプセルの中身をのぞき込み、そしてその場に膝をついた。

 そこにあるのは、金色に輝く翼の生えた巨体。あの〝融合種ハイブリッダー〟と呼ばれる肉体である。

「これはどういうことなんだ、エナ!? ここに俺の身体があるはずなんじゃねえのか!?」

「そ、それはそのはずなんだけど……。ここはとりあえず、アイシャさんに聞いてみるわ」

 言ってエナは、正太郎の胸のペンダントトップに向かって心を通わせた。すると、

「うーん、どうやらアイシャさんも分からないみたい。自分の見た場所はここで間違いないらしいんだけど……」

「なあ、エナ。ここは火星だといったな。もしかすると、こういった場所は火星の至る所に存在するんじゃねえのか?」

「いえ、それはないってアイシャさんが言っている。アイシャさんに見えている映像も角度も何もかも、全てがこの情景と一致してるって言ってるの」

「じゃ、じゃあ、もしかして俺の身体は……」

「もしかすると、この融合種ハイブリッダーが……!?」

 カプセルの中身は、まさしく黄金に輝く翼の生えた存在。正真正銘の人間とはかなり逸脱した姿だったのである。

「そ、そんな……。俺の身体が……」



 

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